都心の複合施設で本格的な救助・救出訓練 チームの役割決めて連携

東京ミッドタウンの地下に設けられた「防災道場」で行われた訓練

都心の大型複合施設を管理・運営する民間企業が、大災害を想定した本格的な負傷者の救助・救出訓練を実施した。暗闇の中、多くのケガ人が発生している状況を模擬的に作り出し、重傷者の捜索から治療の優先順位を決めるトリアージ、救急搬送までの一連の流れを体験した。

訓練を実施したのは東京ミッドタウンマネジメント株式会社。2011年の東日本大震災をきっかけに防災への取り組みを強化してきた同社では、3年前に地下4階の空き倉庫スペースに、社員向けの防災教育施設「防災道場」を開設。災害時に必要となる救急救命スキルや、救助道具など緊急資器材の活用方法などを全社員で段階的に学んでいる。

 

民間企業で実践できる教育プログラムを開発

講師は元消防士で、現在防災コンサルティングなどを手掛ける株式会社タフ・ジャパン代表取締役の鎌田修広氏。「多くのテナントが入居し、日々、買い物客などでにぎわう施設では、災害時に管理会社の社員自らが、負傷者の救助・救出などの初動対応に当たる必要がある」と、民間企業でも実践できる災害対応力の向上に向けた教育プログラムを開発し、同社の社員に指導してきた。

当日の訓練について説明するタフ・ジャパンの鎌田氏

3回の教育プログラムで個人のスキル向上と連携強化

教育プログラムは全3回コースで、1回目、2回目の講習では災害対応の心構えや資器材の活用方法を学び、3回目の「チーム対応総合訓練」では、被災状況を模擬的に作り出し、1・2回で学んだ資器材などを実際に活用して、救助・救出を体験する。個人のスキル向上はもちろんだが、指揮調整や情報収集など、チームごとに役割を決めて、それぞれのチームが連携を取りながらトリアージまで組織的な活動ができるようにすることを目標にしている。

今回の訓練は今年初の総合訓練で社員約16人が参加した。同社によると、これまですでに全社員の約80%にあたる100人が受講しているとういう。

前年度の教育プログラム

当日は、まず鎌田氏が、トリアージや無線の使い方とともに、災害対応の基本的な枠組みについて説明。アメリカで標準的な災害対応の仕組みとなっているインシデント・コマンド・システム(ICS)を例に、チームの役割や情報共有において気を付けるべき点などを解説した。

続く実践編では、指揮調整、情報収集、実働などICSの役割に応じてチームを編成し、模擬負傷者や人形が倒れこんだ疑似的な災害現場で、サーチ・アンド・レスキューと呼ばれる初動対応を実施した。

防災道場の中には、模擬負傷者や人形が配置されている。それぞれ状況や症状などが書かれたプレートが張られていて、参加者はトリアージをしながらチームで連携して救出に当たった

初回は、電気をつけた明るい現場での訓練だったが、それでも各チームとも連携が取れず、部屋の中に負傷者が何人いて、そのうち何人救出できたのかも共有できない状況となった。しかし、その後の休憩時間に「役割をしっかり決めよう」「その都度連絡を取り合おう」など課題について話し合うと、2回目は、電気を消した真っ暗な部屋の中で、さらにドライスモークが充満した過酷な状況にも関わらず、リーダー役が各チームの作業分担などについて的確な指示を与え、効率的な救出作業が実現した。被災現場の状況は、無線によって対策本部の情報班に伝えられ、ホワイトボード上で共有された。

2回目は暗闇で煙の中作業に当たった

防災道場の開設時から中心となって取り組んできたという同社プロパティマネジメント部の河野秀彦氏は「まずは全社員で繰り返しのこの訓練を実施しスキルを確実に習得したい。今後は施設の機械設備類のメンテを行っている協力会社などにも展開し、要望があればテナントなどにも展開していくなど、広がりのある場所にしていければと考えている」と抱負を語った。

最初はホワイトボードに何を書いていいかも分からない状況だったが、次第に情報共有ができるようになっていった

(了)

© 株式会社新建新聞社