「勝運の神」見守る八日市かすかに残る
「飛行場」の遺構
岩石が覆う神秘的な赤神山(滋賀県東近江市)は、日本に根付く神体山信仰と相まって神の宿る霊山として古くから崇められてきました。東に八日市を望むこの山に鎮座する阿賀神社は、守護する天狗の名前から“太郎坊宮”と称され、“勝運と幸福の神”として広く崇敬を集めています。社殿の一つ、絵馬殿の天井に木製のプロペラが見えます。
「八日市には飛行場の歴史があった」と話すのは、郷土史家の中島伸男さん。「まだ誰も飛行機を見たことがない大正3年、愛知郡愛荘町の荻田常三郎という人が、フランスで飛行技術を学び、購入してきた単葉機で八日市沖野ケ原(現・東近江市南部地区)を発着とする飛行に成功した。以来、八日市町の主導で民間飛行場開設の町おこしが始まるが、紆余曲折を経て大正11年、陸軍航空第三大隊の軍用飛行場となった」。
陸軍飛行場の誘致は地域経済の活性化に貢献しますが、戦時下は大きな危険や困難を伴うことに。戦後、飛行場跡地は開拓が進み、昭和30年代から宅地化が進んでいきました。「戦後70年。もう八日市に飛行場の面影はどこにもない。忘れ去られようとする歴史を伝える役割を果たしていきたい」と中島さん。
パワフル地元愛
ふるさと盛り上げて
昼間はシャッターの閉まる店の多い八日市本町商店街(東近江市)に元気な店が。アメリカンな外観、窓越しのオリジナルジーンズが目を引く「FORTY NINERS」。国内外からファンが訪れるその店から徒歩1分にある同店の縫製工場では、オーナーの小中儀明さんが自ら旧式ミシンでジーンズを縫製。「大阪、東京出店への誘いもあるが、自分は八日市のまちに育ててもらった。このまちを拠点に、夢を追いかける大人の本気を子どもたちに見せたい」。
ヴォーリズ建築の「HONMACHI93」は、雑貨、洋服、飲食店などを併設した複合施設。同施設を立ち上げた北浦耀司さんは「地域おこし協力隊を通じ、学生時代に遊んだ八日市の商店街活性化の一助を担う目的で立ち上げた。時間の流れがゆったり感じられる居心地のいい空間で、個性あふれる作家たちと楽しく営業している」。
―大人の探訪スポット―
古くは八風街道と御代参街道が交わる交通の要衝として栄え、
飛行場があった八日市。
この春はのどかな田園地帯を進むローカル線・近江鉄道で、
ゆったり電車旅はいかがですか。