『ひとびとの精神史 第1巻-敗戦と占領』 戦争教訓伝える真摯な姿

 本書は、敗戦以降「この国に暮らす人々が、何を感じ考えたか、どのように暮らし行動したか」を精神史的に探求する企てである全9巻の書物の第1巻である。水木しげるや茨木のり子、黒澤明、花森安治、中野重治ら12人が論じられる中で、沖縄の受苦の経験者として大田昌秀氏が選ばれている。

 執筆者の比屋根照夫氏は、大田氏の琉球大学から県知事時代を経て現在まで親交が深い。とはいえ両氏には14才の年齢差がある。鉄血勤皇隊員として摩文仁を彷徨(ほうこう)した大田青年の戦争体験、その原点から長く強く描かれた彼の生の軌跡を、後続の世代である比屋根氏がどのように見つめてきたか。「書かれた」大田氏だけでなく、「書いた」当人である比屋根氏の精神史をもそこに読むことができる。本書所収の他の論考とは異色のオーラが漂うゆえんである。

 大田氏の戦後の足跡、研究者として、沖縄の自立と平和を理念に掲げた政治家としての業績は周知のことであろう。90歳となる今もなお尽きぬ情熱に、私たちはメディアを通して日々接している。氏は、沖縄戦の傷痕を心に秘めつつも強い精神力で戦後を生きた先人たちのシンボル的存在といえる。このような先人たちを見送る側の私たちは非体験者としてこの世に取り残されつつある。この人たちを欠いた世界を考える時、私はただ途方に暮れるしかない。

 けれども、戦後世代の私たちだからこそ見てきたことがある。それは、あの戦争の教訓を子孫末代にまで伝えようとする、愚直ともいうべき真摯(しんし)さに満ちた献身の姿だ。生き残ってしまったことを悔やみながらも、死者たちへの手向けとは、イクサの悲惨を二度と子どもらに味あわせないこと、平和の世を実現することだと、その思いを原動力に、日米両政府へ異議を唱え続けた(る)姿を。 

 沖縄の戦後史を今も編み上げているのは、まさにその精神の糸であろう。地獄の先に彼らが紡いだ弥勒世(みるくゆ)の夢の美しさを続く世代に伝える、その責務の重さをかみしめる読後感である。

 (豊見山和美・県文化振興会職員)

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 くりはら・あきら 1936年生まれ。立教大名誉教授。政治社会学。

 よしみ・しゅんや 1957年生まれ、東京大教授。社会学・文化研究・メディア研究。

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