企業と地域が助け合う地区防災計画制度 ボトムアップの制度で行政を巻き込め!

これが地区防災計画制度のロゴです(内閣府防災情報のページより)

最近よく、「地区防災計画制度」という言葉を見聞きしませんか? 
後ほど説明しますが、都道府県と市町村が策定する「地域防災計画」と似た響きですが、別の計画ですから間違えないでくださいね。実は、この地区防災計画制度を利用すれば、皆さんの会社のBCPの実効性が高められますし、行政からのサポートも得られやすくなることを知っていますか? SDGsにもつながるんですよ! 今回は企業にとっての地区防災計画制度についてご紹介します。

 

東日本大震災の教訓から生まれた制度

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、多くの方が尊い命を亡くされたことから、改めてお互い助け合う共助の重要性が明らかになりました。そこで、国が災害対策に関する代表的な法律である災害対策基本法を改正して2014年4月から始まったのが「地区防災計画制度」です。

■トップダウンだった防災対策がボトムアップに
日本の防災対策の体系は、国→都道府県→市区町村→住民といわばトップダウンでした。国が大きな方針を決めて、その方針のもとで、都道府県と市町村が地域防災計画を定めて取り組むといったものです。

出典:内閣府地区防災計画ガイドラインに筆者が加筆

この体系ですと、行政境界よりも小さな町内会や小学校区単位といった地域のコミュニティーが公的な計画に反映されにくいといった課題がありました。地域のことを一番よく知っているのは、地域に住んでいる方ですし、街全体が被害に遭うような大規模な災害で行政は助けに来られません。そこで地域住民や企業、NPOなど各種活動団体(図では「地区居住者等」と表記しています)が、自分たちで災害時の対応や事前の備えについて計画を作り、行政に提案できる制度がスタートしました。これは、従来トップダウンだった防災対策が東日本大震災を教訓にボトムアップも可能となった画期的な制度です。

もしも会社の屋上に避難したいと言われたら?

前回の連載記事では、「近所づきあいが事業継続力を高める秘訣です」と紹介しました。近所の方は、地域の地形や昔の災害のことをよく知っていますから、こうした情報を対策に生かすことが重要だとお伝えしましたよね。

前回記事はこちら→ 近所づきあいが事業継続力を高める秘訣  

では、もし、ご近所の方との会話の中で「うちの父は子供の頃、この地域では何度も洪水があったと言っていたし、今年の夏、大雨が降ったら、辺り一帯は浸水するかもしれません」と言われたらどうしますか? その方の忠告を深刻に受け止め、洪水を想定して屋上に避難する計画を立てたり、サーバー類を上層階に移すなど、さまざまな対策をすることが事業継続力を高めることにつながるはずです。しかし、それだけで完結しない場合もあります。もし、このご近所の方から「もし洪水になったら、御社の屋上に地域の皆で避難させてもらえませんか?」と依頼されたらどうしますか?

会社の周辺は起伏の少ない平らな土地で、便利ではありますが、標高が低く浸水が心配される地域だとします。避難場所となり得る高台は遠く、近くに安全な避難場所もありません。ご近所さんは御社が鉄筋コンクリート造りの立派なビルなので、大雨が降っても上層階に逃げ込めればきっと命は助かると考え、こんな相談を持ち掛けてきたのです。急激に水位が上昇するような災害となった場合は、避難に時間のかかる年配の方や体の不自由な方は、命を落とす危険性が高くなります。

助けてあげたいのはやまやまだけど、いくらご近所さんとはいえ自社に関係のない人を、しかも大勢社内に入れてしまったら、セキュリティー的にも不安ですし、長期間そこに滞在してもらうことになれば、一時的に事業継続どころではなくなるかもしれません。それを、自社とご近所の担当者だけで話を進め、約束するとなると、かなり勇気がいると思います。

もしかしたらどんどん要求が膨らんで、その場合の備蓄品などまでも受け入れ側が一方的に負担させられるようなこともあるかもしれませんし、下手に断れば、地域での評判が悪くなる危険性もあるかもしれません。それに、もし受け入れを表明したら、避難したいというご近所さんは、かなりの数に上ることも想定されます。

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困ったら役場の防災担当窓口に相談!

そんなとき、ぜひ利用していただきたいのが地区防災計画制度です。
地区防災計画制度を使えば、行政や専門家の視点で第三者的なアドバイスをもらいながら、より良い避難の方法や、お互いの助け合い方についてルール作りを行い、出来上がったルールを行政にも共有しておくことができます。このルールは、行政文書の地域防災計画にも位置づけられることから、公的な側面も大きく、企業としての地域貢献にもつながります。第三者的なアドバイスを受けながら取り組むことで、自社の災害対策を見直すきっかけにもなりますし、メリットは大きいはずです。

どうすれば、この制度を使えるのでしょう?

まずは事業所が所在する市区町村役場の防災担当窓口にご相談してください。そして、「地区防災計画制度というものが利用できると聞いたことがあります。どのようにすればよいですか?」とぜひ聞いてみてください。
きっと、いい取り組み方法や事例を教えてくれたり、詳しく相談できる専門家を紹介してくれると思います。
もし、具体的なアドバイスが得られないまでも、確実に、過去の災害履歴や現在想定されている災害の規模などを記したハザードマップなどの情報はもらえるでしょう。すぐに屋上を避難場所として提供すると決められなくても、住民の方と一緒に対策を考える材料にはなるはずです。その中で本当に会社の屋上が最も適した避難場所なのか、どこまでを会社が行い、どこまでを住民が行うのかといった議論ができるようになります。

津波一時避難場所として施設を地域へ提供(出典:内閣府防災担当 平成27年度地区防災計画フォーラム)

 

地域の価値を高める地区防災計画

では、企業と地域が一緒に防災を進めている事例をご紹介します。
徳島県鳴門市にある株式会社大塚製薬工場と地域住民が連携した防災活動は、平成26年度内閣府地区防災計画モデル事業に選定された取り組みです。

同社では、防災面での地域貢献は自社の“自助”であり、かつ、地域から求められる役割であるとの認識のもと、地元自治体や地域との積極的な連携を行っています。
具体的には、工場が立地する鳴門市、松茂町との防災協定の締結や、地元自主防災会や学校関係者、行政、警察、消防などとの連携によるCCP(地域継続プラン)の実践など、幅広い取り組みをされています。地区防災計画のモデル事業では、例えば、企業は避難場所を提供するけれども、その後は住民が責任を持って備蓄品の配布や、避難所への誘導を行うなど、企業の役割と住民の役割を明確にすることなども検討しました。

■計画策定後の継続性
同社の取り組みは、南海トラフ地震発生時には津波による危険がある地域において、安全性を高め、地域の価値を高める活動につながっています。

■SDGsを意識してみよう
地区防災計画の取り組みは、安全かつレジリエントで持続可能な地域づくりにつながることから、まさにSDGsにも結び付くと言えます。きっとみなさんの会社の価値を高め、多様な得がたいつながりを獲得できるチャンスとなるでしょう。

いかがでしょうか? 
万が一、市区町村役場にご相談されてもつれない回答が返ってきたら、そのときは私が相談に乗りますので、ぜひ教えてくださいね(笑)。

(了)

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