LGBT、身を隠し難民に 家族絶縁、命狙われ アフリカ30カ国超で禁止

ケニアの首都ナイロビ郊外のアパートで、窓の外を見つめるナマルさん=1月(共同)

 アフリカで性的少数者(LGBT)への迫害が深刻だ。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、全54カ国のうち30カ国以上で同性愛行為が禁じられ、命を狙われることもある。

 難民キャンプでは、LGBTでない難民により危害を加えられる事件も頻発。家族に絶縁され、身を隠しておびえながら暮らすLGBTの人たちは「居場所はどこにもない」と訴える。差別撤廃や権利獲得に向けた運動も起きつつあるが、大きなうねりになっていない。

 ▽笑うやじ馬

 「難民キャンプは自分を受け入れてくれる最後の場所だと信じていた。でも、そうではなかった」。ウガンダ出身のゲイのナマルさん(32)が嘆いた。

 20歳のころ、男性しか好きになれないと気付いた。兄に「もう家族ではない」といわれ、両親に縁を切られた。勤務先のガソリンスタンドで2015年、見知らぬ男に顔に化学薬品をかけられそうになり、隣国ケニア北部のカクマ難民キャンプへ逃げた。

 数カ月がたった蒸し暑い昼下がり。LGBTでないソマリアやスーダン難民7人に約30分間、木の棒で殴られた。理由は「ゲイだから」。頭や脚から大量出血して助けを求めた。だが、100人ほどいた難民のやじ馬は暴行を止めず、ナマルさんの手つきをまねして笑うだけだった。

 LGBTでない難民も、祖国で紛争や飢餓に苦しんだ被害者だ。ナマルさんは「彼らは虐げられるつらさを知っているはずなのに、難民キャンプでは人を傷つける側に回っている」と悔しがる。

 ▽警察も加害

 暴力は日常の光景だった。簡易な柵に囲まれたキャンプ内の小屋にはウガンダやタンザニア、ブルンジから逃れたLGBTの難民約200人が住んでいた。刃物や石を持った男らが毎週のように襲撃し、視力を失うまで殴られる人もいた。

 ケニア警察に助けを求めたが、警察官も迫害に加担。被害届を受理しないだけでなく、ナマルさんをはじめ何人ものLGBT難民が取り調べ中に殴られ負傷した。身の危険を感じ、昨年末に約200人の多くが首都ナイロビなどへ避難した。

 ▽嫌悪感

 1月中旬、野原や畑が広がるナイロビ郊外。ナマルさんは、4階建てアパートの一室で取材に応じた。「ここはまるで刑務所だ」という。ゲイやトランスジェンダー難民7人と生活。襲撃を防ぐため玄関のドアだけでなく外の鉄柵にも鍵をかけ、日光がほとんど差し込まない薄暗い部屋で大半の時間をテレビを見て過ごしていた。

ケニアの首都ナイロビ郊外のアパートで、窓の外を眺めるナマルさん=1月(共同)

 だが、取材の1週間後、このアパートを追い出された。「ゲイとは話したくもない。ゲイはアフリカの文化にそぐわない」「このアパートの評判を落としたくないから、出て行ってほしい」。ナマルさんは、嫌悪感に満ちた文言が並ぶ退去通知書を大家から受け取った。

 ナマルさんは同室の7人と共に荷物をまとめ、別の町へ移った。「何も悪いことをしていないのに、隠れながら暮らさないといけない。移動ばかりの人生に疲れた」。故郷のウガンダに帰る場所がないナマルさんは、LGBTに寛容なアフリカ以外の国で暮らすのが夢だ。

 ▽危険を覚悟

 3月下旬、ナマルさんから連絡があった。「取材に来てほしい」と興奮気味だ。当局に拘束されたLGBTの釈放や、差別撤廃を求めるデモがナイロビの国連施設前で行われた。普段身を隠して暮らすLGBTの人たちが、顔をさらして声を上げた。リスクはあるが「こうするしか選択肢はないんだ」と語るナマルさん。だが、他のアフリカ諸国でこうしたデモはほとんど実施されていない。

 アフリカは保守的な風潮が根強く、LGBTを「悪魔だ」と見なす人も。一部の政治家は「同性愛は欧米的価値観で受け入れられない」と主張して人々を扇動している。

 タンザニアで昨年10月、政府幹部が「LGBTを見つけたら通報してほしい」と市民に呼び掛け、デンマークがタンザニアへの援助停止を決めるなど欧州諸国が反発。だが、今年1月にはナイジェリアでも警察幹部が「ゲイは国から出て行かないと訴追する」と警告した。イスラム教徒が多いスーダンやソマリアでは逮捕されると死刑になる恐れもある。

 ▽難民受け入れを

 欧州などには、LGBT難民を受け入れる国もある。だが、日本はLGBTでない難民の受け入れ自体が少なく、LGBT難民となると門戸はほぼ閉ざされているのが現状だ。

 日本からナマルさんなどカクマキャンプにいたLGBT難民の支援を続け、自身もトランスジェンダーの嶋田聡美さん(一般社団法人「レインボー・レフュジー・コネクション・ジャパン」代表理事)は「アフリカではLGBTの存在が否定されているが、多くの日本人は迫害の事実を知らない」と指摘。「日本政府は彼らを難民として受け入れてほしい」と訴えている。 (ナイロビ共同=中檜理)

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