忖度

 あったと断定することも、それに基づく不正疑惑を追及することも難しい。「忖度(そんたく)」という言葉が政治の場で問題になるたび、もどかしく感じてきた国民は多いのでは▲忖度とは下の立場の者が上の胸中を先回りして推し量ること。「森友」「加計」問題では、官僚が安倍晋三首相の心中を忖度し、公平であるべき国の政策をねじ曲げたのではないかと、厳しく批判された▲官僚が「忖度はなかった」と答弁する場面は何度も繰り返された。「忖度」は認めないものだと思っていたら、塚田一郎国土交通副大臣は自ら忖度したと胸を張った▲首相の地元の下関と麻生太郎副総理の地元の北九州を結ぶ道路の整備について、かつて打ち切った国直轄調査費を本年度予算に計上したのは、「(2人が)言えないので私が忖度した」からだと福岡県知事選の応援演説で語った▲それが事実なら、政治家の地元へ利益を誘導するために政策を決めたことになる。選挙戦を有利に運ぼうとしたとのそしりも免れない。まずいと気付いたのか、翌日には事実と異なる発言をしたとして撤回し謝罪した。それでも野党の批判はやまず、きのう副大臣を辞任した▲忖度による利益誘導はあったのかどうか。よく分からないままで、国民のもどかしさがまた募る。これで幕引きにしてはならない。(泉)

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