ネスレ日本が獣医と飼い主をつなぐ新ECサービス

高岡浩三ネスレ日本社長兼CEO

ネスレ日本は、ペット用の「療法食」のEC事業「ピュリナ プロプラン ベッツサポート」を6月1日から全国展開すると発表した。療法食は特定の病気のために栄養バランスを調整したペットフード。各地の動物病院と連携し、飼い主は獣医の処方を受けて購入する。背景にはペットの長寿化、健康寿命延伸に対する需要の高まりがある。同社は2020年までに全社でEC比率20%を掲げており、同サービスをBtoBの柱のひとつに位置付ける。(富永周也)

ペットとして飼われる犬や猫の数は横ばいだが、室内飼いと獣医療の発達で寿命は長くなる傾向にある。健康で長生きさせたいという需要は強く、療法食は成長カテゴリーだ。

対象となる症状は肥満ケア、腎臓疾患、食物アレルギーなど。ペットに与える場合は医薬品と同様に獣医師の診断に基づきペットオーナーに推奨・指導管理されているが、実際はオーナーが自己判断で購入、誤用したり、来院が減少するため獣医師が診療経過を把握しにくいという問題があった。

ネスレグループはペットフード業界でも大手とのM&Aにより世界的にシェアを伸ばしてきた。

ピュリナ プロプラン ベッツサポートで販売する療法食

新サービスのピュリナ プロプラン ベッツサポートは、動物病院専用のデジタルプラットフォーム。まず動物病院にウェブサイトに登録してもらい、病院で獣医師がペットを診断した上で、適切な療法食と与え方を指導。ペットオーナーは指導に基づき、ウェブサイトで商品を購入する。

指導から購入までをワンストップで行えるため、ネスレ日本には療法食の販促だけでなく、対面による商談や、流通にかかるコストを効率化できるメリットがある。関西地方の動物病院での試験導入を経て、今後は全国約1万2000カ所の動物病院に提案していく。

同社はオフィス向けの「ネスカフェアンバサダー」や小売店向けの「カフェ・イン・ショップ」でコーヒー飲料の販促に注力してきた。しかし2018年に顕在化した物流費の高騰が業績にも影響し、同年上半期は高岡浩三社長兼CEOのトップ就任(2010年)以来、初の減収となった。

巻き返し策として同年10月、佐川急便と共同で宅配サービス「MACHI ECO(マチエコ)便」を開始。地域の個人に配達を行ってもらう方式で、当初は東京・大阪で開始、順調にエリアを拡大しており、高岡社長は「全国70%、うまくいけば100%を目指したい。ECの物流費は最低でも6億円はセーブできる」と期待を込める。3月26日に都内で開いた事業戦略発表会で明らかにした。

コーヒーのブランドイメージが根強いネスレだが、ペットフードやウェルネス事業のシェア拡大、さらにデジタル・トランスフォーメーションと、業容は加速度的に変化している。

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