ロッテの「ホームランラグーン」はどう作用する?“先駆者”ホークスに見る変化

ソフトバンク・松田宣浩【画像:(C)PLM】

前年の本塁打数がリーグ5位だったホークス打線は、テラス設置を機に生まれ変わった

 2019年シーズンからロッテの本拠地ZOZOマリンスタジアムに「ホームランラグーン」が設置された。球場が狭くなった影響は開幕からの3試合が終わった段階で早くも表れ、ホームのロッテとビジターの楽天にそれぞれ6本、計12本のホームランが生まれている。今後もこの量産態勢が続くことが予想されるが、本塁打・被本塁打の増加はロッテの各打者、そしてチームにとってどのような影響をもたらすのだろうか。

 そこで、今回はロッテに先立って2015年にホームランテラスを設置したソフトバンクの本拠地ヤフオクドームのケースを“先例”として振り返っていきたい。「『フィールド狭しと走り回る外野手を間近に感じながら、大飛球に歓声を上げる』という、よりエキサイティングで迫力満点の野球観戦」を実現するために設置されたホームランテラスは、球場を訪れるファンのみならず、チームの戦いぶりにも大きな影響を与えている。

 NPBの試合が開催される球場の大きさは統一されておらず、各球場によって異なっている。例えば、本塁打が出やすい球場とされる明治神宮野球場の規模は両翼97.5メートル、中堅120メートル、フェンスの高さは3.3メートル。横浜スタジアムは両翼94メートル、中堅118メートル、外野フェンスの高さは5メートルだ。

 そして、テラス設置前のヤフオクドームは両翼約100メートル、中堅約122メートルという規模だった。両翼と中堅は打者有利と表現されがちな東京ドームと同じ数字だが、5.84メートル(東京ドームは4メートル)という外野フェンスの高さによって、ホームランテラス設置以前は本塁打が出にくい球場として広く認知されていた。

 ところが、ホームランテラスの設置によって、左中間の中央部が最大で5メートルほど接近して約110メートルに。また、外野フェンスの高さも4.2メートルとなり、約1.6メートル低下した。両翼と中堅の距離こそ変わらなかったものの、この改修によってチームや選手たちにどのような変化が生まれたのだろうか。具体的な数字を用いて、改めて確認していきたい。

 まず、ホームランテラスが設置される前年の2014年シーズンと、設置初年度の2015年シーズンにおけるソフトバンクのチーム本塁打数を確認していきたい。(カッコ内の数字はヤフオクドームでの本塁打数と、リーグ内での本塁打数の順位)

2014年:144試合 95本(34本)(リーグ5位)
2015年:143試合 141本(77本)(リーグ1位)

 以上のように、試合数が1試合減ったにも関わらず、本塁打数は46本も増加している。ヤフオクドームでの本塁打数も2014年は全体の35.8%にとどまっていたものの、2015年は54.6%と、実に半数以上が本拠地で生まれた計算に。ヤフオクドームはテラスが設置されるまでは本塁打が出にくい球場とされていただけに、まさに劇的な変化といえる。

ホームランテラスの設置で大きく本塁打数を増やした松田宣と李大浩

 もちろん、テラス設置の影響は守備時にも表れる。福岡ソフトバンクのチーム被本塁打は2014年はリーグで2番目に少ない90本だったものの、2015年にはリーグワーストタイの113本へと大きく増加している。やはり、テラスの存在は敵、味方双方にとって、非常に大きなファクターとなっていたようだ。

 次に、当時のチームにおいて主力打者を務めた選手たちの成績の変遷についても紹介していきたい。主力の中でも特にホームランテラスの影響を強く受けたと思われる選手たちの、2014年と2015年の出場試合数と本塁打数は下記の通り。(カッコ内の数字はヤフオクドームでの本塁打数)

内川聖一選手
2014年:122試合 18本(4本)
2015年:136試合 11本(5本)

松田宣浩選手
2014年:101試合 18本(5本)
2015年:143試合 35本(23本)

李大浩選手
2014年:144試合 19本(10本)
2015年:141試合 31本(21本)

長谷川勇也選手
2014年:135試合 6本(3本)
2015年:30試合 5本(3本)

柳田悠岐選手
2014年:144試合 15本(6本)
2015年:138試合 34本(13本)

 以上のように、主力打者の多くがホームランテラスの設置をきっかけに本塁打数を大きく伸ばしているのがわかる。とりわけ松田宣の変化は目を引き、試合数の差こそあれど、ほぼ前年の倍となる本塁打数を記録。初めて30本の大台に乗るシーズンとした。また、ヤフオクドームでの本塁打率の高さも特筆もので、実に全体の65.7%を本拠地で放っている計算に。2014年は本拠地でわずか5本塁打だったことを考えれば、いかにテラスの影響が大きかったかがわかるだろう。

 また、李大浩もテラス設置の恩恵を大きく受けた選手のひとり。移籍初年度の2014年には打率.300で優勝に貢献しながらも19本塁打に終わっていた韓国の大砲は、2015年に日本での4年間で最多となる31本塁打を記録。ヤフオクドームでの本塁打数も前年の10本から21本と倍以上に増加させており、こちらも本拠地の変化が打撃成績の向上に大きく寄与したケースと言えそうだ。

 また、今や日本屈指の強打者となった柳田の本塁打数もホームランテラスの設置を機に倍以上に増加。トリプルスリー、首位打者、最高出塁率、MVPと数多くの栄冠を手にし、球界を代表する選手へと飛躍を遂げた。規格外のパワーを武器に圧巻のアーチを数多く描いてきた柳田。ホームランテラス席への本塁打は多くなく、そのほとんどがスタンドまで届く本塁打ではあったが、心理的な側面もあるのか、テラスの誕生と打撃成績の向上は無関係ではなさそうだ。

 テラスの存在は長距離砲以外の選手に対しても作用し、アベレージヒッターの長谷川も473打席で6本塁打(本塁打率78.83)から85打席で5本塁打(同17)と、大幅に本塁打率を向上させた。今宮や本多(現コーチ)のようにさしたる影響がなかった選手もいたが、多くの選手に影響を及ぼす重要なファクターであったことは論を待たないだろう。

テラス設置後の2015年は90勝をマークして独走Vを果たした

 そんな中、主力選手の中では内川だけが例外的に本塁打数を減らす結果に。ただ、そんな内川もヤフオクドームでの本塁打率は大きく増加させている(2014年の22.2%に対して、2015年は45.5%)。本塁打の総数こそ減少したとはいえ、また違った形でテラスの影響が感じられる一例だ。

 そして、テラスの設置はチーム成績にも大きな影響を及ぼした。ソフトバンクの2014年と2015年のシーズン成績と、チーム総得点・総失点は以下の通り。

2014年(リーグ1位):144試合 78勝60敗6分 勝率.565 607得点 468失点
2015年(リーグ1位):143試合 90勝49敗4分 勝率.647 651得点 491失点

 2014年のソフトバンクは、中田賢一、鶴岡慎也、岡島秀樹、李大浩、デニス・サファテ、ジェイソン・スタンリッジ、ブライアン・ウルフを獲得する大型補強を敢行し、前評判も高かった。期待通りにリーグ優勝、そして日本一に輝いたが、レギュラーシーズンでの勝ち星は80勝未満。2位のオリックスとのゲーム差は0、勝率の差はわずか.002という僅差で、盤石の優勝とは言い難いものだった。

 対照的に、翌2015年はオフの補強の目玉だった松坂大輔投手が相次ぐ故障に苦しみ、戦力となった新加入選手はバンデンハーク投手のみ。しかし、前年比で得点が44増加したのに対し、失点増は23にとどまって攻守のバランスが向上。得失点差の改善は勝ち数にも反映され、前年から12勝を上積みして90勝に到達。勝率も前年比で.082上昇し、2位の日本ハムに12ゲームの大差をつけて優勝を飾った。この得失点差の変遷を考えても、テラスの設置は首位独走に一役買っていたと言えるのではないだろうか。

 ちなみに、ホームランテラスを設置した2015年以降、福岡ソフトバンクはリーグ1位とリーグ2位がそれぞれ2度ずつと、3位以下に落ちたことが一度もない。もちろん、それも他を圧倒する戦力や優れた編成があってのことだが、2012年は3位、2013年は4位と、過去には苦しむシーズンも少なくなかった。それだけに、テラス設置による得点力増は、チームにとってもひとつのターニングポイントになったという見方もできそうだ。

 ロッテは2018年のチーム総得点がリーグ5位の534点、本塁打数が12球団最少の78本と、昨季まで慢性的な得点力不足に悩まされ続けてきた。早くもその効果が表れつつあるホームランラグーンの新設は、野手の打撃成績のみならず、ソフトバンクのようにチームの成績向上にもつながるのか。グラウンド内外で改革を推し進めるロッテが打った新たな一手が、どのような結果をもたらすのかに注目していきたい。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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