DeNA、今季は「9番・投手」が基本線も…「2番打者最強説は9番打者次第」

DeNA・ラミレス監督【写真:荒川祐史】

データ上は投手が8番でも9番でも結果に違いはない?

 フィールド内外でさまざまな新風を巻き起こしているDeNA。なかでも画期的だったのは、投手を8番に起用する打順。この戦法の意図はどこにあるのかを探るため、現場の声を聞いてみた。

「最初に聞いた時は、やはり多少の驚きはあった。やはり我々がそれまでやってきた野球ならば『9番・投手』というのが当然だった。でも違和感などは感じなかった。なぜなら監督と会話をしたりデータをしっかり見ると、9番に投手を置こうが、8番だろうが結果はほとんど変わりない。実際に試合でやってみてもそうだった」

 ラミレス監督を作戦面などで多くサポートする青山道雄ヘッドコーチはこう語ってくれた。

 2018年は惜しくもCS進出を逃したDeNA。しかし、ラミレス監督就任以来の3年間はAクラスを争う安定したチーム成績を残している。特徴はそれまでの常識にとらわれない柔軟な発想。17年からは、打撃が弱いとされる投手を8番、野手を9番に入れる並びを導入。つながりを創出し得点力を上げようとした。

「8番・投手」の打順を導入した当初、9番に起用されることが多かったのが倉本寿彦だ。

「まぁ最初聞いた時は正直、驚きはしたけど、実際に試合になればあまり意識することはなかった。もちろん前の打者、投手が安打を打ったりすると、打たなければ、という気持ちになったこともある。ウィーランドなんか平気でホームラン打つからね」

 18年まで在籍したジョー・ウィーランドは17年に3本塁打、18年に1本塁打を放ち、代打で起用されたこともある。

「でもいつもと変わらずに自分の打撃をするということを考えていた。調子が落ちている時などは、上位を打つよりも気軽に打てるので良い気分転換になったこともある。それに試合が始まれば9番の役割はその都度変わる。リードオフにもなれば、クリーンアップにもなる。よく言われる打順での役割が求められるのは、だいたい初回の上位打線だから」

倉本は「還せる9番」、柴田は上位へ「つなげる9番」?

 また倉本同様、柴田竜拓も9番での起用が目立った。

「打順は関係ないというか、僕の場合は試合に出て結果を残さないといけない立場ですから。何番を打とうがやることは変わらないというか、とにかくしつこく食らいついて次につなげることしか考えていない」

 大きくない身体ながら細かいプレーを武器に必死にプレーしている。その上で9番を打つために意識することはいくつかあったという。

「8番の投手がアウトになって2死になった時ですね。マウンドに上がるのに時間を取れるようには意識した。初球は待つようにしたし、打席に入るのもゆっくりしたこともある。打席を意図的に外すこともありました。その打席で僕が結果を出せれば良いのですが、それとともにチェンジになっても次の回、投手がゼロに抑えることが大事ですからね」

「9番・野手」を導入し、倉本は勝負強い打撃で度々、打点を挙げる「還せる9番」だった。逆に柴田はチャンスメークをしたり、上位へ「つなげる9番」。お互いの役割、長所の違いが9番打者への考え方、アプローチの違いに見て取れる。

 近年では16年、MLBで世界一に輝いたカブスが同じような打順を採用している。この時は若手有望株を9番に置き、内角攻めなどのきわどい投球から守る、チャンスの場面で勝負してもらう、という考えがあったという。ある意味プレッシャーの少ない状況で打たせたい、という長期的育成の意図があった。DeNAはこの場合とは異なる。青山ヘッドコーチは、あくまで得点力を上げるための作戦ということを強調する。

「9番に育成したい選手を置くというのは全くない。あくまでどうやって得点力を上げてチームを勝利に近づけるか。だからそういう意味で調整があるとすれば前後の打順、特に2番打者との兼ね合い。例えば、2番にバントや進塁打などは期待せずどんどん打っていくタイプを置いたら、9番には出塁率が高い選手を置く。逆に2番が小技ができる選手なら9番に長打も期待できる選手という感じ」

 8、9番打者にだけ注目されがちであるが、2番打者がキーだという。逆に言うと近年トレンドの「2番打者最強説」の意味合いも変わってくる。

「2番打者最強説も9番打者次第だと思う。いくら2番に長打がある強打者がいても、その前に走者がで出ないと得点力アップにはつながらない。実際、試合が始まってしまえば回によって打席に立つ順番は変動する。そういう意味でも前後との兼ね合いが重要だと思う」

「究極のことを言えば良い打者からどんどん並べていけば、打線がつながるわけです。でもその中でより確率を高めて得点力を上げるかだからね。また得点を取れるかどうか、は結果論の部分もある。そういった難しさの中でいろいろとトライしているということ」

 青山ヘッドコーチはこう説明する。

「今のところ19年の『8番・投手』はないと思う」も…

 CS進出を逃した昨シーズン終了後、ラミレス監督は打順について再考する構えを見せている。実際に19年はキャンプから「9番・投手」での打線が目立つ。 青山コーチは言う。

「取り急ぎ、今のところ19年の『8番・投手』はないと思う。でもそれだって状況次第ではわからない。監督だって1つのバリエーションとして頭の中にはある。それだけでも武器の1つになるから」

 オープン戦最終戦、DeNAはDHの採用をせずシーズン同様、投手を打席に立たせた。この時は昨年までと同じく「8番・投手」。シーズンオフ中から「8番・投手」廃止の声が聞こえていた中、ここへ来て戻した格好である。 そして迎えたシーズン開幕では再び「9番・投手」を採用した。

 143試合の長丁場、どのチームも状況に応じて打順が変わることは日常茶飯事。その中でどのような形に落ち着くのか。最も機能する形は何なのか。それを早く見つけ出したチームが優位に立つのは必然であり、現状はまだ模索している段階とも言える。

 ラミレス監督をはじめ首脳陣がここまで頭を使うのは、DeNAのチーム力に直結すると考えているからではなかろうか。バリエーションの1つとはいえ、やはりDeNAの「8番問題」から目が離せない。シーズンの大きな鍵を握るかもしれない。(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を定期的に更新中。

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