第24回「夜しか開かない病院の待合室は、それぞれでいることをみんなでやっている。...ところで、2冊目の本が出ます」

癒されるって、いったいなんでしょうか? こんにちは、朗読詩人の成宮アイコです。

雑居ビルの分厚い鉄のドアは、銃弾にも耐えられるんじゃないかというくらい重たい。セコムかインターホンかわからない機械がついたドアを開けて診察券を出すと、レースのエプロンをした看護婦さんが声をかけてくれます。

「今日は美容診察の日だからちょっと待つかもしれないですよ」

ダークブラウンの木彫りの受付、花柄ソファーにレースクッション、壁にびっしり点滴メニュー、ジャージの男性、金髪マスクでピンク色のワンピースの女の子、「…点滴も診察はしなくちゃだめよ」と神妙な声、置かれたままのヴィトン、ノーブランドのパーカーで咳きこむわたし。

過剰なほど厳かなオルゴールの音楽は厳かすぎて頭がおかしくなりそう。ずっと聴いていると、なんだかホラー映画に出てくる教会のシーンを連想させます。

風邪をひくたびに、夜しか開かないこのクリニックに来るのですが、ここに来るとなんだかとても癒されます。

常連さんたちが受付で「デトックス」とだけ言って点滴ルームへ。襟を立てた男性も続けて入ってきましたが、「デトックス、今いっぱいなのよ」と断られ、親しそうに会話をして出ていきました。味わい深くて大好きな光景ですが、今は咳でそれどころじゃないから早く順番来てほしい…。

むせて涙目になりながら壁を見上げると、乱雑に貼られた点滴のメニューが目に入ります。濃度ビタミン点滴か…今度受けてみようかな、と思っていたらまた激しく咳きこんでしまいました。イスが足りなくて立っている人もいるほど満員の待合室、あまりにも咳が止まらず誰にでもなく「すみません」と言ったら、隣に座っていた女性がカタコトで「ダイジョブ?」と声をかけてくれました。声を出そうとするとむせてしまうので、うんうんと頷いていたら、これまた木彫りの重厚感のある棚に置いてあるティッシュの箱をこちらに向けてくれました。

ここにいると、わたしたちはそれぞれの人生があって、まったく別々の生活をしているんだなということを実感します。生活スタイルも国籍も職業も違う、この待合室から出たら、もう会うこともないかもしれない。バラバラでいることをみんなでやっている。なんとなく、そう思いました。

それってとても自由だし、自由でいるつもりがみんな同じだし、なんだかとてもいいなと思いました。

実際は言葉のあやでしかありませんが、「それぞれがそれぞれであることを誰もがしている」、わたしも詩や文章でそういうことがしたいのです。

そう、タイトルの件。

皓星社さんより『成宮アイコ朗読詩集』が今年、刊行予定です。書肆侃侃房さんから出させていただいた1冊目は自伝と詩だったのですが、今回は詩のみです。

「本が出ます」なんて、なんだか文学系な感じがしてこそばゆいのですが、わたしはずっといちばん好きな詩人はつんく♂さんだし、いちばん好きな文学は風俗サイトの写メ日記だし、いちばん好きな表現者はアイドルだし、いちばん好きな言葉はダントツで寒ブリです(寒ブリって文字ほど発声してみたくなる字面はないような気がする。あとおいしい)。

Aico Narumiya

朗読詩人。朗読ライブが『スーパーニュース』や『朝日新聞』に取り上げられ、新潟・東京・大阪を中心に全国で興行。2017年に書籍『あなたとわたしのドキュメンタリー(書肆侃侃房)』刊行。「生きづらさ」や「メンタルヘルス」をテーマに文章を書いている。ニュースサイト『TABLO』『EX大衆 web』でも連載中。2019年皓星社より詩集発売決定。

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