辺見庸 『月』- 私たちはあの戦後最大の殺傷事件から何を学んだのだろうか

私たちはあの戦後最大の殺傷事件から何を学んだのだろうか。

「まさりおとり」という言葉に人間を当てはめていいものだろうか。この作品にはそんな葛藤が形を変え、あらゆる場面で表現されている。人は誰しも違う考え方、生き方、喜怒哀楽の感受がある。その上で「優り」と「劣り」という分類には違和感を抱く。この『月』は相模原障害者施設殺傷事件がモデルとなっている。あくまでこれはフィクションであり、ここで考えたいのは事件の残虐性でも被害者感情でもない。「まさりおとり」のような優劣を求める社会のあり方である。現実社会では障がい者に対する偏見、アイデンティティーに人種を掲げ排他的行動を行う憎悪、個の尊厳を守らぬ権力の濫用、きりがない。この作品を読んでいると人間と呼ばれるものがどうあるべきなのか、そんな命題などちっぽけに感じてしまう。「まさりおとり」というこの境界線に果たして意味はあるのだろうか。そんな疑問が脳内を揺らめかせる、ぜひ一読して頂きたい作品である。(LOFT/PLUS ONE:宮原塁)

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