<南風>ざわわとナンチチ

 創業間もなく開発した、思い入れの深いお菓子が二つあります。ひとつが「ざわわ」。西表島の製糖工場と連携して作った一口サイズの黒糖です。ネーミングに大変苦労しました。中身と袋のデザインは決定したものの、肝心の商品名がさっぱり思い浮かびません。そんな折、ふと耳にした「さとうきび畑」の中で歌われる「ざわわざわわ…」のフレーズ。一瞬のひらめきで商品名を「ざわわ」に決めることができました。この命名がご縁で「さとうきび畑」の作者・寺島尚彦先生にお目にかかることができ、歌詞に託す先生の反戦平和への深い思いにも触れることができたのです。 もうひとつが「ナンチチ」。マカダミアナッツを黒糖とココナツ風味の生地で包み、ローストしたお菓子です。焦げる寸前まで強く焼き上げることから、商品名は方言で「お焦げ」を意味する「ナンチチ」にしました。ひと昔前の食糧の乏しい時代にあっては、炊飯で生じるナンチチでさえも子供のおやつ…。そんな切なさと響き合うパッケージデザインを必死で模索していたとき、写真家・東松照明先生の作品に出合いました。1977年、コザの路上で肩を寄せ合いヒソヒソ話をしている子供3人のモノクロ写真。そこには、ナンチチのデザインで求めていた琴線に触れるメッセージが凝縮されていました。僕は当時長崎にあった先生のアトリエを訪ね、写真の使用許諾を願い出ました。そして先生は無鉄砲な僕の望みを叶(かな)えてくれました。

 ざわわとナンチチ。商品誕生を陰で支え、共に喜んでくれた寺島先生と東松先生は既に天に召されましたが、お二人からの贈り物は地場産品の中で生き続けています。くしくも本日12月14日は東松先生の命日。先達の計り知れない「沖縄への熱き思い」をあらためて胸に刻み、モノ作りの励みにしたいと思います。

(金城幸隆、オキネシア代表取締役社長)

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