「弱さ」と戦った巨人ドラ1左腕との記憶 大学恩師がプロ初勝利に感じた変化とは

八戸学院大・正村公弘監督【写真:高橋昌江】

八戸学院大・正村公弘監督が教え子・巨人高橋のピンチでの投球内容で気付いた

 4日の阪神戦で、巨人の大卒新人としては59年ぶりとなる初登板初先発初勝利を挙げたドラフト1位ルーキー・高橋優貴投手。東海大菅生(東京)、青森の八戸学院大で成長を遂げ、ドラフト1位左腕へとなった。大学で指導した正村公弘監督は「すごい。プロに入っていい指導者や先輩と出会って、どんどん吸収して成長しているのかな」と初勝利を喜んだ。

 正村監督は試合をリアルタイムに見ることはできなかった。スマートフォンで試合速報サイトをチェックした。更新された。高橋は初回、2死を奪ったが糸井に二塁打を許し、大山には四球を与えた。

 「悪い癖が出ているな……」

 いきなり迎えた初回のピンチ。指揮官の脳裏には高橋と過ごした4年間が蘇ってきた。

 正村監督は言い続けてきた。

「強いボールを放れるのになんでそんなもったいないことをするの?」

「大学生クラス相手でお前の球威があれば、ゾーンで勝負できるだろ。それをなんで怖がってボール、ボールになるんだ」

 実は昨秋のドラフト直後、正村監督は「本当に期待されているんだろうけど、巨人の1位というのがプレッシャーにならなければいいな」と懸念していた。正村監督が初めて高橋を見たのは東海大菅生2年の3月。腕の振りの良さが印象に残っているという。高橋の球速は3年夏の直前に140キロを超えるようになっており、大学では1年春からリーグ戦で登板してきた。

 大学3年の秋、球速は152キロに到達。そのキレのある直球にスライダー、カーブ、スクリューを操り、北東北大学リーグで通算301奪三振をマーク。富士大・多和田真三郎投手(現西武)の記録を抜き、リーグ最多記録を樹立した。その一方で、質のいい球を持ちながらも大事な試合で勝てず、スカウトの中には精神的なもろさを指摘する声もあった。間近で指導してきた正村監督にとっても高橋との4年間は彼の「弱さ」との戦いでもあった。だから、喜ばしいドラフト1位指名も、そのプレッシャーに耐えられるかという心配が勝っていた。

 高橋本人も学生時代、「気持ちの面は厳しく、よく言われました。今も強いわけではないんですけど、大事だと教わりました」と話している。日本ハム・吉田輝星投手を金足農高時代に指導して話題となったが、元々投手育成に定評があり、自身も左腕投手だった正村監督からけん制やフィールディング、投球フォームなど、投手としてのあらゆる“いろは”を学んだ。「投げるだけがピッチャーじゃないと教わった」というが、孤独なマウンドでの「弱さ」との戦いは続いた。チームを勝たせなければならないという責任感もあったかもしれない。

「成功体験も大事だけど、失敗体験も捨てちゃいけない」と高橋へエール

 学生野球ラストゲームとなった、ドラフト直後の明治神宮大会の東北地区代表決定戦でも1-0から逆転を許して敗れた。5回で8奪三振を奪いながらも7安打されて2失点。走者を背負った場面で踏ん張り切れなかった。試合後、正村監督は「今までやってきたことだけでは通用する世界じゃないと思いますから、すべてにおいてレベルアップして、長く野球をやってほしい」と話した。

 あれから5ヶ月以上が経ち、プロ初マウンドを踏んだ高橋。初回、2死一、二塁というピンチを背負い、福留を迎えた。カウント2-2から投じたのは外角へ逃げるスライダー。福留のバットは空を切った。「自分から断ち切ったので、『いける』と思ったと思う」と正村監督。空振り三振でピンチを脱し、無失点で切り抜けた姿に成長を感じた。

「(学生野球引退後も)『練習をしろ、しろ』って言ってきたからね。それを乗り越えて怪我なくキャンプに行ってくれて、キャンプ中もシートバッティングで投げて新聞の一面を飾ったりした。いいところで投げさせてもらって、バッターたちが打ってくれて、59年ぶりの(大卒新人)初登板初先発初勝利って、すごいじゃない! ちゃんと順を経て、結果を出している。それはすごい、上等でしょ。プロに入っていい指導者や先輩と出会って、どんどん吸収して成長しているのかな。あいつの素直さとか一生懸命さとか、みんなが認めてくれて、受け入れてくれて、ああやって打ってくれたりするのかなと思いますね」

 打線の援護を受け、6回4安打5奪三振1失点と好投し、初白星を手にした。正村監督にとっては東海大の先輩でもある原辰徳監督や同じ左腕の宮本和知投手総合コーチらのもとで力をつけ、学生時代とは違った姿を見せた高橋だが、そのベースには「弱さ」と戦った正村監督との4年間がある。

 球団として59年ぶりとなる大卒新人の初登板初先発初勝利という快挙を成し遂げ、ステージはまた1つ、上がる。

「どんどん、力をつけていかないと。簡単に打ち取れるわけがないから、プロの世界。これから先、バッターが慣れてきて、球筋が見えてくる。成功体験も大事だけど、失敗体験も捨てちゃいけない。嫌なイメージを払拭していくための練習とかもやっていかないといけないんじゃないかな」

“失敗のススメ”を説きながら、プロの階段をしっかりと上っていくことを八戸から願っている。(高橋昌江 / Masae Takahashi)

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