葉山御用邸で落ち葉かきを続けている奉仕団体がある。有志が「御用邸のある町の町民にできることをしたい」と、平成に入って発足。天皇、皇后両陛下のご静養に合わせ、30年近く活動してきた。時代は間もなく平成から令和に移るが、発起人の角田武彦さん(79)は「これからも細く長く、継続していきたい」と話している。
「葉山御用邸勤労奉仕・さくら会」は1991年1月、発足した。横須賀市内の団体が邸内で落ち葉をかき集めているのを、角田さんが耳にしたのがきっかけだった。
「町外の住民ができている。町民もできることを」。角田さんは管理事務所に申請し、宮内庁から承諾を得た。団体名は、「小磯の鼻」と呼ばれ、両陛下がよく散策される海岸の波打ち際で、角田さんが見つけた淡い桃色の二枚貝から付けた。
さくら会は両陛下ご訪問の際、管理事務所からの依頼を受けて集まり、落ち葉をかき集めている。2005年からは、会員が交代で御用邸の玄関先に立ち、両陛下のお出迎えとお見送りもしている。
発足当初、30人ほどだった会員はいま、約70人にまで増えた。「友人が友人を誘うなど、人の縁がつながって広がった」と角田さん。多くは女性で、町民だけでなく、横須賀、鎌倉、逗子など近隣市からも加わった。角田さんは「お庭がきれいになり、『閑静な場所で過ごせて安らいだ』と会員からも言われると、うれしくなる」とほほ笑む。
角田さんにとって、御用邸は昔から身近な存在だ。職人だった父は邸内での仕事も請け負っていた。角田さんも跡を継ぎ、出入りしていた。
小学生の時、邸内で友人たちと草野球をしたのも良い思い出だ。「ボールなんてないですから、布を丸く、糸で絡めて(ボールにし)、木の枝をバットにして遊びました」
宮内庁の規定により、会員の定年は75歳と決められている。角田さんは定年後も、参加希望者の問い合わせ窓口を買って出るなど、会との関わりを持ち続けている。
天皇陛下は4月30日に退位される。角田さんは両陛下に「どうかお体を大切に、健康なお体を、ご自愛くださいませ」との言葉を寄せ、続けた。「切れないクモの糸のように、これからも活動を続けていけたら、と思っています」