「応援せずにはいられない」オリ榊原の初勝利 育成時代を知る球団レポーターの思い

2017年に取材した際のオリックス・榊原翼(中央)【写真:竹村美緒】

プロ初勝利を挙げた榊原投手、帽子の裏には「そ・わ・か」の3文字

 開幕からもうすぐ1か月!厳しい試合も沢山ありますが、それと同時に野球で一喜一憂できる幸せを日々噛み締めています。今年のバファローズは若い選手の活躍も目を引きますね。苦しいゲームもありますが、このまま経験を積んでいったらシーズン後半にはどんなチームになっているんだろう?と期待が膨らみ毎試合ワクワクしながら見つめています! そんな若手選手の中から先日プロ初勝利を挙げた選手が居ます。いつもはTV画面を通じて選手たちの情報を伝えていますが、今回はこの場をお借りして私の取材してきたものを皆様にお伝えできればと思っています。

 誰よりも必死さが伝わる表情。マウンドを降りるときに一目で力を出し切ったと分かる姿。降板後も声をあげてベンチから一緒に戦う姿。どんな時も感謝を忘れないその心……。その姿を見ると心に迫るものがあります。
オリックス・バファローズの榊原翼投手です。応援せずにいられない。そんな気持ちになるのはきっと私だけではないはず。

 初めて榊原投手にお話を聞かせていただいたのは、2017年。私がスタジアム・アシスタントMCをしていた頃でした。育成ドラフト2位で入団した榊原投手。第1印象は「明るくて無邪気!チームメイトにみんなに愛されている選手」でした。

 その姿を見つけると「バラ~!」と、先輩・同期問わずいろんな選手からいじられ、榊原投手の周りにはいつも笑顔があります。みんなから好かれている人柄だというイメージは今も変わりありません。

 そんな榊原投手が大事にしている言葉がある。帽子のつばの内側にマジックで記された「そ・わ・か」の3文字。

「そ」そうじ
「わ」笑い
「か」感謝

 の頭文字をとったもの。「大事にすると神様が味方してくれることらしいです! 近藤さんが教えてくれました!」と話してくれました。悩み、苦しんだときも、その言葉を守りながら努力を積み重ね1軍のマウンドを目指してきました。

 そして3度目の先発マウンドでその時はやってきました。2019年4月17日、京セラドームで行われた日本ハム戦。6回1失点の力投でウイニングボールを手に西村監督とまばゆいフラッシュを浴びた榊原投手。「本当に幸せです」。試合後から翌日の午前中までで、約200件もの祝福メールを受け取ったといい、白い歯がこぼれた。球団史上初の育成出身の初勝利という偉業を成し遂げた若き右腕のその原点を辿ります。

18年からオリックス戦のリポーターを務める竹村美緒【写真:本人提供】

「野球よりも費用を抑えられるから」と小学4年で空手を始める

 千葉県銚子市で、榊原家の3人兄弟の長男として誕生。幼少の頃から野球が好きだったけれど、最初は子供ながらに家計を気遣ったそう。「野球はお金がかかるから……」。そこで小4で始めたのは空手。仲のいい先輩も居たというのもあったし、空手なら「野球よりも費用も抑えられるかなぁ」と思ったからだといいます。

 そうやって始めた空手。いつも稽古場に迎えに来てくれたのは、父・和夫さんでした。お父さんの話をするときの榊原投手はとても誇らしげです。本当に自慢のお父さんなんだろうなぁ。

「うちのお父さん、やばいっす。めちゃくちゃ優しいんです。」

 お父さんも、野球観戦が好きだった。親子でよく野球を観たし、空手のお稽古から帰ると父とキャッチボールをしたり、家の前のグランドで一緒に走ったりもした。

 ある日、いつものように空手の稽古の後、父と一緒に帰宅すると、自宅で父が倒れた。脳梗塞だった。それ以来、約10年、父は今も入院したまま。会っても会話をすることはできないけれど、手を握りながら話しかけると笑顔で返してくれる。「俺も頑張るから一緒にがんばろう」。父の手を握り、そう言葉を伝えることで自分自身の力も湧いてくると言います。

 榊原投手が野球を始めたのは、小4の終わり頃、父が倒れた後からだった。叔父夫妻に育てられながら、一歩ずつプロ野球の道へ歩みを進めた。

「周りは絶対に無理だろうと思っていたと思います。でもそれを跳ねのけるくらい、やってやろう!! という気持ちがありました。」

 2016年に育成ドラフト2位でオリックスに入団すると、その言葉通り、翌年には支配下登録され、シーズン後半には先発ローテにも加わった。そして今年、開幕ローテを勝ち取り今季3戦目でプロ初勝利も挙げた。

「やってみなきゃわからないですね」

 諦めない気持ちが夢を叶えてくれるということを証明してくれました。次なる目標は「2桁勝利すること。そしてチームの優勝に貢献すること」。大きな翼を広げ、躍進一途のシーズンへ。今シーズンの榊原投手の一挙手一投足から目が離せません!!

竹村美緒(たけむら・みお)
2014年から17年までオリックス・バファローズスタジアムアシスタントMCとして活動。18年からプロ野球中継のオリックス・バファローズ戦のリポーターやヒーローインタビュアーを努める。休みの日でも京セラドームでのホーム戦には必ずといっていいほど顔を出し取材に励む。(竹村美緒 / Mio Takemura)

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