パーパス・ステートメントの一歩先へ

IMAGE: DANONE CEO ANTOINE RIBOUD MAKES HIS HISTORIC SPEECH IN MARSEILLES IN 1972| CREDIT: DANONE/MEDIUM

よく練られたパーパス・ステートメント(社会における存在意義)や的確に定義されたバリューは、企業の組織を変化させるとともに意思決定を方向付け、長期にわたり強い企業文化を育んでいくのに十分だろうか。(翻訳=梅原 洋陽)

大小関わらず、多くの企業や組織がパーパスを見つけ、パーパス・ステートメントを言語化することにたくさんの労力を費やしている。またバリューを定義したり、見直すことで組織内にポジティブな変化を起こすことももちろん重要な仕事である。

しかし、私には疑問に感じる部分もある。それは、良くできたパーパス・ステートメントと上手く定義されたバリューは

1.組織に変化をもたらすのか?

2.意思決定を導き、時間をかけて行動規範や文化などを推進するのか?

という疑問だ。

私の考えでは、これらだけでは不十分である。パーパスやバリュー単体だけでは、出来ることはあまりないのではないか。影響力を発揮するのに必要なのは、ストーリーや議論を通じ、個々の要素を結びつけ、意味付けしていくことだろう。

パーパスを基点にしたビジネスを展開していくということは、企業の最終目標を再定義していくことを意味する。今までとは異なった決断や取引を行い、従業員と企業との関係性も変化させることになる。

長い対話を重ねる中で、リーダーは変化を現実にすることが可能になる。明確に説明し、従業員に新たな優先順位や、責任、関係性を丁寧に教えていくことだ。

優れたリーダーは、パーパスを伝える重要な対話を作り出し、会社の伝説になることがある。

組織内の構造的変化や、企業文化の不思議な力を的確にとらえた独創的な文面を紹介したい。これらは、企業内において文化を形作るモーセの十戒のような役割を果たしている。5年・10年・50年が経過してもなお、従業員や、採用予定者、ビジネススクールの学生、そしてその企業の熱烈なファンからも大切にされている。

例えばこのようなものがある。

ジョンソン・エンド・ジョンソン:クレド、1943 

「我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する」

このクレドは、時代の変化に左右されない普遍的なものである。J&Jの様々なステークホルダーとの関係性を的確に表現している。約80年が経過した今でも共感を呼ぶ内容だ。

IKEA:ある家具商人の言葉、1976 

「私たちは今後一貫して、多くの人達に寄り添うことを決意します」とIKEAの創設者であるイングヴァル・カンプラード氏はIKEAが世界的な成長を始めた直後に、同僚たちに伝えている。「私たちの顧客にとって良いことは、長期的に見れば私たち自身にとっても良いことです。これは責任を伴う目標です」。

この比較的短い文章は、これ以降のIKEAの文化に強力な影響を与えている。

Patagonia:社員をサーフィンに行かせよう、2005 

もちろん全てのリーダーが本を書くことで文化を形にし、変化を起こすわけでは無い。しかし、このやり方はとてもパワフルではある。

イヴォン・シュイナードは2016年に「2005年にこの本を書いたのは、Patagoniaの従業員にとっての哲学的なマニュアルになれば良いと思っていたからです。まさか、このシンプルな本が10ヶ国語にも翻訳され、高校や大学そして大きな企業にとっても有益なものになるとは考えていませんでした」と述べている。

これらの文章は何が特別なのだろうか。まず、重要なのはメッセージだ。伝え方ではない(伝える方法は自分のリーダーシップのスタイルや強み、組織の大きさによって決めるべきである)。

私が考えるに、これらのメッセージが特に心に響く理由は

・起こしたい変化がとても明確である。

・自分たちの組織を人間的な視点から深く考え抜いている。どのような組織でありたいか、どのようにそう在りたいかを重視していて、競争的な優位性や利益を産むことなどにはほとんどふれていない。

・大胆で、永続的な選択にフォーカスしている。「私達はあれではなく、これを支持する」のように。

・心からのメッセージである。

・全体像を示している。点を繋ぎ、決断したことの結果も強調している。

・従業員が、重要な存在だという力強いメッセージを伝えている。

・PR部門に任せていない。自分達で産み出している。

他の素晴らしい事例があれば是非教えて欲しい。産み出すことを楽しもう!

この記事の原文は www.sustainablebrands.com に掲載されています。

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