<隠れた名盤> 由紀さおり『BEGINNING~あなたにとって~』 力まないのに、言葉の重さが確実に伝わってくる

由紀さおり『BEGINNING~あなたにとって~』

 デビュー50周年記念作。アルバム曲もふんだんに収録したベスト盤のタイトルが『PASSING POINT』=“通過点”で、本作を“幕開け”とするその挑戦者たるスタンスがまず素晴らしい。

 全8曲は、亀田誠治をトータルプロデューサーに迎え、水野良樹(いきものがかり)や永積崇(ハナレグミ)など気鋭のJ-POPアーティストが多数参加。中でも、アンジェラ・アキが詞曲を手がけた『あなたにとって』は、『四季の歌』と『糸』を掛け合わせたような大作で、彼女が歌うことで登場人物の包容力が何倍にも増幅する。おそらく今後のLIVEの定番曲となるだろう。

 他にも、森雪之丞が作詞、亀井登志夫が作曲した『岸辺の恋人』は、穏やかな日々の中でもそっと恋が始まるというミディアム・バラードで上品だし、都はるみの『愛は花、君はその種子』(ベット・ミドラー『The Rose』の日本語詞版)での歌声はもはや神々しい。どれも決して力まないのに、言葉の重さが確実に伝わってくるのは、やはり日頃から美しい言葉を心がけている賜物だろうか。

 揺るぎない実力ゆえ、打ち込み系のダンスポップや、クイーンばりのロック・オペラなど更なる挑戦をも期待してしまう。長年の研究や人の世話などゴールが見えづらい時にも、本作を聴けば大きな励みとなるはず。

(ユニバーサル・2778円+税)=臼井孝

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