元舌がん患者の新平塚市議 生きづらさ克服を誓う 統一地方選2019

舌がんを克服した経験を語り、支持を訴えた平塚市議選の新人・渡部亮氏(左)=17日午後6時半、JR平塚駅前

 2減した定数26を争い激戦が展開され、21日に投開票された平塚市議選。初当選した新人5人のうち、無所属の渡部亮氏(39)は市職員を務める傍らスノーボーダーの選手として活躍した異色の経歴の持ち主だ。4年前に舌がんを告知され闘病の末に克服。「がん患者が生きづらさを感じる社会を変えていきたい」と意気込む。

 24日の市議会議場で行われた当選証書授与式。渡部氏は「がん経験者として、アスリートとして、行政マンとしての手腕を政治に生かしていく」と当選証書を手に誓った。

 過去最低の41.31%の投票率になった市議選は新人12人を含む36人が立候補。新人にとっては厳しい混戦となったが、スポーツ団体を中心に支持を受け、得票数4位で当選した。

 15歳からスノーボードを始めた渡部氏。2004年に同市役所に入庁し、仕事と競技を両立してきた。インストラクターの頂点を決める全国大会では15年に自己最高の6位に入るなど順風満帆なアスリート人生。一変したのはその年の夏だった。

 全く別の症状で訪れた耳鼻科の病院で舌がんが発見され、重度のステージ4だった。5年生存率は50%。自覚症状は全くなく、ただ信じられなかった。

 舌の下半分と、がん細胞が転移した首のリンパ節を手術で切除。言葉を話すことが難しくなり、今でも指先のしびれが残り左肩も上がりにくくなった。それでもアスリートの道は諦めなかった。

 手術から3カ月後には雪上でのトレーニングを再開した。選手として体力面に不安はあるが精神的には強くなった。「死を覚悟し次はないという気持ち」。集中力を高め、17年の全国大会で自己最高の準優勝に輝いた。一方で元がん患者に対する偏見を感じていた。「がん患者は死に向かっていると周囲から思われている。でも違う。自分たちは生に向かって生きている」。職場での仕事も減った。同僚の配慮だったが「確かにうまくしゃべれないことはある。でも、がん患者は何もできないわけではない」ともどかしさを感じた。

 行政の現場にいてスポーツ振興に力を注ぐべきだという思いもあった。「生かされた命を社会のために使いたい」。昨年12月に市役所を退職し、市議選への立候補を決意した。

 選挙期間中はあえて拡声器を使わず、駅前の雑踏で声を張り上げて支持を訴えた。「一時は親にも言葉が通じなかったが、今はここまでしゃべることができるようになった」。がんを克服した自らの姿が、病魔と闘う人々の希望になってほしいという思いもある。

 投じられた4066票の重みを感じ、新たな一歩を踏み出す。「がん患者も障害者も安心して暮らせる仕組みづくりを進めていきたい」と決意を口にする。

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