改正入管法で増える外国人 医療通訳育成急務

外国人の患者向けに多言語対応をしている診療所の待合室=3月、大和市の診療所「小林国際クリニック」

 地域社会に増え続けている外国人が安心して医療を受けられるよう、医療通訳の普及を訴える声が、神奈川県内でも高まっている。未払いがクローズアップされがちな外国人医療費だが、医療現場からは「正しい意思疎通を取れる環境を整えれば、早期の対処や健康維持が可能になり、むしろ医療費増大を抑えられる」との意見が多い。4月の改正入管難民法施行に伴い、外国人労働者の受け入れ拡大が見込まれる中、人材育成が課題となる。

◆危機管理に

 大和市には、かつてインドシナ難民の定住促進センターが置かれた歴史を反映して、今も多くの外国籍市民が暮らす。市内の診療所「小林国際クリニック」の待合室は頻繁に外国人患者で埋まる。

 最近ではフィリピンやインド、ナイジェリア国籍の新患が増えてきた。慣れない地で生活するストレスからくるとみられる過敏性腸症候群も目立つという。「熱は何度ですか」-。日本語を母語としない患者には、外国籍のスタッフが問診時の通訳として活躍している。

 「彼らに『日本で病気になったら必要なこと』をきちんと伝えていれば、対応が遅れることもない」。院長の小林米幸医師は「意思の疎通は医療機関の危機管理にもなる」と話す。

◆需要が急増

 外国人労働者は県内でも急増している。神奈川労働局の2018年10月現在の集計では、外国人労働者は7万9千人、雇用する事業所は約1万4千カ所。いずれも過去最多となった。

 国内で雇われる外国人には、厚生年金や健康保険などの被用者保険が日本人と同じように適用される。3カ月を超えて滞在する留学生などは、公的医療保険への加入義務がある。

 NPO法人「多言語社会リソースかながわ(MICかながわ)」は県との協働事業として、約70の病院・診療所に通訳を派遣している。言語別では英語、中国語、スペイン語の実績が多いが、「最近ではベトナム語やネパール語の需要が非常に増えており、人材育成が追い付かない」(岩元陽子副理事長)。

◆評価を左右

 神奈川では1993年に外国人の未払い医療費を行政が補助する制度が導入されているが、医療通訳派遣が事業化されてからは減少傾向が続く。対象となっている救命救急センターと救急医療機関への2018年度の補助実績は、いずれも30万円程度にとどまる。

 政府は訪日外国人観光客の受け入れ策の一環として医療通訳態勢の整備を検討している。だが地域医療の現場には、国内に住む外国人に向けた支援への訴えも少なくないのが現実だ。

 ことに技能実習生や留学生のアルバイトなど「不安定な立場で働く外国人」の増加に、外国人患者の多い港町診療所(横浜市神奈川区)の沢田貴志所長は懸念を強める。「病気になっても『帰国するように言われた』との相談が出ている。通訳やソーシャルワーカーによる支援体制を整えないと、日本の医療への国際的評価が損なわれかねない」

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