元DeNA戦士が「守りたい」野球人、子供たちの未来 C-FLAPがなぜ必要なのか

フェイスガード「C-FLAP」の普及に尽力するた元DeNAの内藤雄太さん【写真:編集部】

きっかけは顔面死球を受けた大学生の質問 「なんとかできないですか?」

 プロ野球が開幕し、間もなく1か月が経過しようとしている。打席で選手たちがフェイスガードをつけているシーンにも見慣れてきた。顔面死球による長期離脱を防ぐことができる「C-FLAP」と呼ばれる防具。各球団に浸透してきたその舞台裏には2013年で現役を引退した元横浜DeNAベイスターズの内藤雄太さんの奮闘と、浸透してほしい願いがあった。

 内藤さんは玩具製造販売会社の「カシマヤ製作所」に勤務。子供向けの玩具の営業をする一方でメジャー選手が愛用する野球メーカー「Franklin」の打撃用手袋やアメリカのバットメーカー「marucci」の日本総代理店を務めている。C-FLAPを取り扱うきっかけとなったのは昨年末のことだった。

「顔面死球を受けて、陥没骨折してしまった大学野球の選手がいました。その大学生に『メジャーリーガーは顔を守る防具を付けてやっていますよね? C-FLAPをそちらでなんとかできないですか?』とご相談を受けました」

 ヤンキースのスタントン外野手や、ヤクルトのバレンティン外野手が付けているのを見たことがあった。内藤さんは「C-FLAP」の会社が30年以上の歴史のある会社と知り、カシマヤ製作所の西上茂社長と相談。西上氏はすぐに米国の本社に飛び、日本での総代理店となりたいと伝えた。

「C-FLAPの方も『顔を守りたい、と困っている人がいるならば、ぜひ』と言ってくれました。自分の身は自分で守らないとなりません。僕はこの防具が小さい子からプロまで必要だと思っています。ニュースになっていないだけで、顔に死球を受けたり、陥没骨折したりしていまっているので、1人でもそういう人が出ないように活動を続けていきたいと思いました」

 カシマヤ製作所が受けることになり、今年の春季キャンプで12球団に挨拶し、認知してもらう準備を始めた。すると、キャンプに入る前に、どこよりも早く、読売巨人軍からC-FLAPを導入したいと連絡を受けたという。

「巨人は早かったです。選手全員分付けたいので、70個必要と早速、発注が来ました。丸選手が昨年の広島時代から付けていたことも大きかったかもしれません。野球やっている以上は顔、頭を守るのは自分の使命だと言っている選手もいると聞きました」。

 過去に主力のけが人続出のシーズンを送ってから、巨人・原監督は強い選手を求めるようになり、選手のコンディション管理を重視。そのような考えと「C-FLAP」の思いが合致し、キャンプからフェイスガードの装着が原則化となった。

メジャー選手が言った一言が印象的 「僕がここに立てているのはC-FLAPのおかげ」

 打者からは意外な反応もあった。コースの狙いを定める時、目隠し代わりとなって「低めを消せる」という。手を出さないよう、自分の目付の部分を決めやすい。また、頭部や顔面死球を受けた経験がある選手は、恐怖心が薄れ、踏み込んでいけるという声もあるという。

「フィット感がどうとか、目障りにならないかとか、気にする選手もいましたが、自分で角度を変えることもできるので、選手と話をしながら希望の角度で取り付けています。違和感なくできると言ってもらえています」

 ただ一番、訴えたいのは、安全性だ。

 「昨シーズン、メジャーリーグであったのですが、顔面死球を受けた選手が打撲で済みました。試合後の報道で、その選手が記者に『僕がここに立てて話ができているのは、C-FLAPのおかげ。だから、今の時間がある』と言っていました」

 内藤さんらは自社で検査をして、145キロのボールが直撃してもC-FLAPの付いたヘルメットは無傷だったと話す。ケガを全く防げるわけではないが、陥没骨折や重症を打撲で済むような軽減はできる自信はある。NPBの選手が付けることで、球界の認知度は高まった。営業活動はしていないが、それでも広がりを見せたのは、安全性への評価と、選手たちのけがへの意識が高いことが挙げられる。

「僕は子供たちの間でも広まっていってほしいんです。プロ野球は最高峰のレベルじゃないですか。でも、アマチュアの世界にも150キロ近いボールを投げる投手もいます。死球を受ければ、軟式でも衝撃度はあります。草野球で目の付近に死球受けて、眼球破裂寸前だった方も知っています。アマチュアもレべルは上がっていますが、プロほどコントロールが安定しているわけではありませんから」

 ポニーリーグなどでは、実際付けている団体もある。内藤さんは指導者の方々へ訴えかけた。

 「今、使っているヘルメットの強度を皆さんに知ってほしいです。かぶっていれば、大丈夫という思い込みは危険です。あくまで頭部の衝撃を軽減させるものです。団体の方、指導者の判断が大切です。上を目指していくチームならば、投手も厳しいコースにバッターに攻めていきます。バッターも必死に結果を求めます。センスのある子どもでもスーパースターではありませんから、コントロールミスだって出ます。練習の時だって危険はあります。フェイスガードがあれば、安心して見られるんじゃないかなとも思います」

 総代理店になっているが、カシマヤ制作所では直接販売、取り付けはしていない。全国的に見ても東京・ベースボールマリオ、名古屋・ツボイスポーツでしか購入できない実情、取り付けに時間がかかるという課題もあるが、内藤さんはすべての世代で理解を得られるよう、日々、奮闘している。

 野球が好きで、野球に育ててもらった自負が内藤さんにはある。子供たちの身を守るのも、野球人としての義務だと思っている。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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