「アジアンブリーズ」にはオランダリーグ行きが決まった吉村裕基も在籍
2月21日から約1か月間、米国での試合を通じてプロ契約を目指した「アジアンブリーズ」。日本ではなく、異国を舞台に戦ったチームはどのような存在なのだろうか。
アジアンブリーズではレンジャーズやドジャースといったMLBのマイナーチームやメキシカンリーグチームなどと対戦し、スカウトの前で個々の力を発揮する機会が用意された。在籍した選手にはNPB経験者や日本独立リーグでプレーした者だけではなく、キューバや香港、フィンランドから来た者もいた。
先日、オランダリーグの「オースターハウトツインズ」への入団が報じられた吉村裕基選手も3月中に短期間ながらアジアンブリーズに合流。出場したレンジャーズ戦では2安打2打点の活躍で自慢の打撃をアピールした。
選手の経歴だけではなく、国籍も違うまさに十人十色の多国籍軍として共に時間を過ごした選手達。果たしてプロ契約を勝ち取ることはできたのだろうか。4月中旬時点で7人の選手が新たにプレー機会を得て、日米の独立リーグやオランダリーグでユニホームを着ることが決まっている。
こうして異国の地での試合を通じてプロ契約者を輩出したアジアンブリーズ。なぜこのチームが生まれたのか。創設者である色川冬馬氏は現役時代に米国独立リーグでプレーし、指導者としてもイランやパキスタン、香港で代表監督を務めた経験をもつ。色川氏は自身の経験を踏まえ2つ理由を挙げた。
アジアンブリーズを創設、色川氏の想い
「1つ目は選手自身の生きる選択肢を増やすことにあります。異国の地で既存の考えを超えた経験をすることで世界の野球を知ってほしいと思いました。2つ目は日本人がつくったトライアウトのプラットホームの中で実施することにあります」
まず色川氏は自身の海外経験を踏まえて次のように話した。
「日本ではプロ選手になるまでの道がある程度、すでに整っています。しかし、決められたレールの上でプレーすることだけが人生ではなく、世界に広がる多様な選択肢にも価値があると考えています」
色川氏は野球事業に取り組む傍ら、選手自ら考えて行動する機会を提供し、人生における選択肢は多様であってもよいことを伝えている。
次に2つ目の創設理由を語ろうとした時、色川氏の目つきは鋭くなった。「2つ目はビジネス面についてですね。アメリカのトライアウトはアメリカ人が作ったプラットホームの中で受験しなければなりません。そうなると日本人にとって不利なことや理不尽なことも受け入れるしかないのが現状でした」。
海外でのトライアウトは現地の球団関係者がトライアウトの方法や受験料を決めるため、それに従わなければならない。これまでは現地(米国)が決めた受験料に仲介費を上乗せする仕組みが通常だった。今回、アジアンブリーズではトライアウトを作るところから行い、値段設定やトライアウト方法を独自で構築することができた。その結果、仲介料等のコスト削減を実現し参加費を抑えることを可能にした。
色川氏はその状況を踏まえて「日本人に必要なプログラムを取り入れることができ、なお、マネジメントサイドとしてもコントロールできることが増え、米国側の情勢によってプログラムが左右されることがなくなった」と説明する。
参加選手に対して生きる上での新たな選択肢を提供する傍ら、現在の野球ビジネスにも一石を投じた色川氏。アジアンブリーズは日本野球界にも新たな考えやヒントを与えた特別なチームなのかもしれない。(豊川遼 / Ryo Toyokawa)