涙の初登園 成長への一歩 4月の幼稚園送迎バス 4歳男児 帰りの便では「楽しかった」

初登園の日に母親らに見送られる溜渕大騎ちゃん=佐世保市、自衛隊宿舎

 進学や就職で多くの人が新生活を始めた4月。幼稚園に通う子どもたちも新たな一歩を踏み出した。新入園児は、初登園をどのように迎えるのだろうか-。子どもたちの“冒険”を見つめたくて、佐世保市内の幼稚園の送迎バスに乗ってみた。
 吐く息が白くなるほど冷え込んだ4月15日の朝。潮見幼稚園(潮見町)の前でマイクロバスのエンジンがかかった。「この日は毎年緊張する」。速足でステップを上がるのは安部祥子園長(43)。午前7時25分。座席の背もたれの低さに懐かしさを感じたのもつかの間、バスは園児の元に走りだした。
 幼稚園はJR佐世保駅近くの住宅街にある。芸術や体験活動を取り入れた教育に取り組み、市内外から集まる。
 上本山町の駐車場を皮切りに、バスは住宅街のあちこちに止まり、子どもたちを乗せていった。リュックに手提げバッグ-。体いっぱいに荷物を抱えた子どもたち。「バイバイ」と母親に言って元気よく乗り込む子もいれば、何度も手を振る母親を座席から見つめるだけの子もいる。このまま何事もなくたどり着くのだろうか。そんなことを考えたときだった。
 「怖い、ママも一緒に行く」。大潟町の自衛隊宿舎の一角。入り口が開いたバスの前で、溜渕(たまりぶち)大騎ちゃん(4)が顔を真っ赤にして泣きだした。母親の恵さん(31)は大騎ちゃんの目を見つめ、何かを伝えるように抱き締める。体が離れると補助の中村佐由里さん(54)がそっと抱き上げた。
 真っ白なヨットが並ぶ鹿子前町の港に、クスノキが緑の葉を揺らす国際通り。
 「ママは」
 「すぐ帰れるからね」
 窓の風景が変わる中、大騎ちゃんは中村さんの膝の上で泣いては唇をかんで、を繰り返した。「もうすぐ6歳だもん。随分前だから忘れちゃった」と年長の女の子。同じ経験を乗り越えただろう“先輩”の言葉は頼もしく、誇らしげだった。
    ◇   ◇ 
 1時間半の午前保育を終えた帰りの便。新しい友達と肩を並べる大騎ちゃんがいた。
 「幼稚園どうだった」。そう尋ねると、小さいがはっきりとした声が返ってきた。「楽しかった」
 正午すぎ。宿舎前でバスのドアが開くと、満面の笑みの恵さんが待っていた。「朝は、行かなくてもいいよ、と言いたくなったのですが」と恵さん。挑戦が苦手な大騎ちゃんが笑顔で戻ってきてくれた。「私も一緒に成長したい」
    ◇   ◇ 
 「今日は途中から泣かないで登園できたんですよ」。後日、電話で安部園長が声を弾ませた。毎朝ステップを駆け上がる男の子が1人、そう遠くないうちに増えるような気がした。

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