メッシはやはり神!「新時代の到来」を許さない凄みとは

4月18日、メッシが“神”に限りなく近づいた瞬間から12年の歳月が経過した。

2007年コパ・デル・レイの準決勝ヘタフェ戦。当時19歳だったリオネル・メッシはハーフウェーライン付近からドリブルを開始すると、GKを含む5人を交わしてゴールするという離れ業を演じてみせた。

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この世界を仰天させたゴールは、母国で“神”と讃えられるディエゴ・マラドーナが1986年ワールドカップのイングランド戦で記録したものと酷似していたことから、以来、メッシは“神”に誰より近い存在として位置づけられることとなる。

そのことはメッシにとって重い十字架にもなった。

しかし2009年にバロンドールを初めて受賞しサッカー界の頂点に君臨すると、以後、数々の記録を塗り替え、今日では“サッカー史上最高の選手”とも考えられている。

そんなメッシも今年6月で32歳となる。

昨年、ルカ・モドリッチのバロンドール受賞で10年間も続いたクリスティアーノ・ロナウドとの「2強時代」に終止符が打たれ、折しも日本で「平成」が終わり「令和」が始まるのと時を同じくして一時代に幕が下りるのかと思われた。

だが、彼は「新しい時代」の到来をまだ許す気はないようだ。

再び“神”と化したメッシ

メッシは昨夏、アンドレス・イニエスタがヴィッセル神戸へ移籍したことでブラウ・グラーナ(バルセロナの愛称)のキャプテンに任命された。

昨年10月には右腕を骨折し長期離脱するかと思われたが予想されたよりも短い期間で復帰すると、リーガを独走するチームでゴールを量産し続けている。

各コンペディションにおける成績がこちらだ。

ラ・リーガ:31試合33ゴール
コパ・デル・レイ:4試合2ゴール
チャンピオンズリーグ:8試合10ゴール
合計:43試合45ゴール

※数字は全て4月27日現在

相変わらずの得点力…。

今季はリーガのレバンテ戦、ベティス戦、CLではPSV戦でハットトリックを達成しているものの、例えば5ゴールのように大量得点した試合はない。

毎試合コンスタントにゴールしているのが特徴で、ゴール数・アシスト数はともにチームトップとなっている。

先月には10年連続での公式戦40ゴールを達成、また、UEFAチャンピオンズリーグでの得点数を110に伸ばした。

この部門はクリスティアーノ・ロナウドがトップを走っているが、一つのチームとしてはメッシが歴代最多である。

“ブラウ・グラーナ”の王に

再びメッシが輝き始めた理由は何だろうか?まず第一に、「キャプテンとしての使命感」が挙げられるかもしれない。

メッシはアルゼンチン代表で主将を務めてきたが、性格的に温厚で周りを強引に引っ張るタイプではなく、そのことでマラドーナから「リーダーの器ではない」とまで酷評されたこともある。

しかし現代における“リーダー像”は必ずしもマラドーナの時代のようなものとは異なる。

寡黙で驕らず、飾らない姿勢は周囲の尊敬を集めており、彼自身も年齢とともに若い選手を引きたてながら自らも生かされる術を身に付けてきている。

また、代表のことも影響しているかもしれない。今季は昨夏、日本代表を引退した長谷部誠がフランクフルトで輝いているが、メッシもワールドカップ後、先月まで招集を辞退していた。そのことで心身共にリフレッシュできた面はあるだろう。

もう一つはフリーキックだ。もともと高い精度を誇っていたが、近年より技術を向上させており、彼は昨年の公式戦だけで10ものゴールをプレースキックから奪った。

過去には7が最高であったことを考えれば、大幅に強化されているといえる。

かつてプルガ・アトミカ(強力なノミ)と言われた頃のキレッキレのドリブルを発動することは稀になった。しかし経験に裏打ちされた技術と研ぎ澄まされた集中力はむしろ凄みを増している感すらある。

リーグ戦は4試合を残している。5年ぶりのリーグ40得点、そして4シーズぶりとなるCL制覇も視界に入ってきた。

メッシを“高める”チームメイトたち

主将として仲間の力を引き出しているメッシだが、一方でチームメイトたちに高められてもいる。

昨年、メッシは率直な心情を吐露したことがあった。

「僕たちは常にバルサだ。

だけど、実際にはブスケツ、チャビ、イニエスタによって90%のポゼッションができていたんだ。今ではチャビもイニエスタもない。

チームの誰がいいとか悪いとかは言いたくはない。だが、彼らは唯一無二だった」

ロナウジーニョやエトーがいた時代にデビューしたメッシだが、今や彼らはもちろんチャビ、イニエスタもいない。

ライバルとして君臨したロナウドもスぺインを去り、孤独感は確実に増しているはず。メッシは「ロナウドが恋しい」と素直に述べている。

しかし逆にそれがチームに血の循環を促し、結果としてメッシを高める効果につながっているのかもしれない。

スアレスから「仲間のためなら自分の命も差し出すタイプ」と形容されたビダル、ボルドー指揮官から「いくつかの点でリオネル・メッシに似ている」と言われたマルコム、メッシ自身が「彼は世界最高の1人になれるよ」と絶賛するデンベレ。

従来のバルセロナとはやや異なるメンタリティを持った選手たちが刺激を与え、同時に新しいメッシを生み出しているとも言えるだろう。

そこにブスケツにピケ、ラフィーニャ、セルジ・ロベルトら生え抜きに、アルバやアルトゥール、足元に長けたGKテア・シュテーゲン。

バルセロナの精神を理解する選手たちの支えによって、メッシは世界の頂点に君臨することができているのだ。

メッシの偉大さを示す、英雄たちの言葉

ところで今月、メッシを“神”と形容することについて、意外なところから異を唱えるものが現れた。

「人々は敬愛を示す意味でそう呼ぶのでしょうが、理論的には神への冒涜行為です。そのように言うべきではありません。

もちろん彼は良い(good)選手ですが、神(god)ではないのです」

こう述べたのは“パパ”の愛称で知られる第266代ローマ教皇のフランシスコだ。

フランシスコはアルゼンチン生まれで、南米出身者として初めて教皇に選出された人物だ。

つまりメッシの同胞なのだが、サッカーファン(サンロレンソのサポーターである)でもあるフランシスコは、メッシの功績を認めつつも“神”と呼称することには不快感を示したのである。

教皇の立場としてはそうであろう。しかしこれほどの立場にある者に言及されること自体が異例中の異例であり、そのことは既にメッシの偉大さを証明しているともいえる。

そのすごさは、他の選手たちの言葉からも分かる。

ネイマール(PSG)
「僕にとって彼(メッシ)は史上最高の選手のひとりだよ。フットボールにおける僕のアイドルさ」

アンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)
「ずっと彼は難しいことを簡単に見せてきた。それはごく限られた人間にしかできない。何年経ってもまだ驚くべきことをやり続けている。彼は唯一無二だよ」

セルヒオ・ブスケツ(バルセロナ)
「レオ(メッシ)が何たるか、彼の重要性、そして彼ができることを僕らは分かっている。僕らはそれに慣れてきたけれど、彼は多くの賞賛に値するよ」

ネウソン・セメド(バルセロナ)
「メッシは別の惑星からやってきた。彼は違いを生み出す」

ファビオ・カペッロ(元レアル・マドリー指揮官)
「私は16歳の時のメッシを見たことがあるが、本当に凄かった。今と同じようにやっていた。なぜなら、彼は天才として生まれたからだ。彼は他では見られないものをもたらしてくれる」

パオロ・マルディーニ(元イタリア代表)
「彼はカルチョ(サッカー)の本質だ。それに、自分がやられた時の振る舞いもね。この15年間において最強だよ」

彼を“神”と形容することが相応しいかどうかは分からない。

しかしメッシは今やサッカーファンにとって信仰の対象であり、引退した後も長く語り続けられる存在であることは確かであろう。

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