1978年にエバラ食品工業(横浜市西区)が発売した焼き肉のたれ「黄金の味」。年間出荷本数約4千万本を数える人気商品で、同社が行った2016年のアンケートで購入者の94%が「満足した」と評価している。しかし、同社は17年、発売以来初めてのリニューアルを行った。基幹商品刷新の背景には、「このままではいけない」という危機感があった。
1968年、家庭でも手軽に焼き肉を楽しめるよう、同社が「焼肉のたれ」を発売し、新しい調味料としてヒット商品となった。その後、ホットプレートの普及や大型スーパーの出店が進んだことで家庭に焼き肉が徐々に普及していったといい、同社が「さらにおいしい焼き肉のたれを届けよう」と開発したのが「黄金の味」だった。
「育ち盛りの子どもたちも肉をたくさん食べられるように」と、たれの甘さに焦点を当て開発を進めた。創業者の森村国夫は、研究員に「たれだけでもすすれるくらいに」と注文を付けたという。
完成したのは、リンゴをメインに果物を約35%使ったフルーツベースの商品。一般的な焼き肉のたれがしょうゆをベースにしている中、画期的で高級感のある商品として消費者に受け入れられ、家庭用焼き肉のたれの定番となった。
2000年代に入っても好調に売れ行きを伸ばしていたが、社内には危機感があったという。
「世帯購入率で見ると約7割の家庭で使われておらず、新規顧客獲得に課題があった。また、重厚感のあるイメージが若い世代には“古くさい商品”として伝わってしまっている懸念もあった」
同社マーケティング部家庭用マーケティング課の石井敦史担当課長は「基幹商品だからこそ、10年後、20年後も使い続けてもらうために刷新が必要だった」と明かす。
折しも、世帯人数の減少を背景に、同社が開発した1人でも使いやすいポーション調味料『プチッと』シリーズがヒットしたころ。社会の変化に対応した、より魅力的な商品とするため15年に社内横断のプロジェクトチームを立ち上げた。
黄金の味に関わる全ての人の思いを知ろうと、社内だけでなく消費者、問屋・小売店などの取引先にもヒアリングを重ねた。コミュニケーション部広報課の鈴木悠司チーフは「ロングセラーブランドとは、メーカーだけでなく、消費者や売り場の方が時間をかけて育ててきた共有の財産。多くの人と思いを共有することに努めた」と話す。
リニューアルでは、一番の強みである「フルーツベース」の魅力を強化するため、フルーツピューレの生産工程を見直した。加熱時間や温度を調整したところ、とろみが強くなり、より果実のコクを実感できる味わいになった。
また、お年寄りや子どもでも取り扱いしやすいよう、ガラス瓶から軽量のペットボトル容器に変更。1人でも焼き肉が楽しめるポーションサイズや、バーべキューで使える大容量を新たに作りバリエーションを充実させた。
宮崎遵社長は、「ブランドの顔ともいえる商品の刷新は大きなプレッシャーだった」と振り返りつつ、「まだ魅力を伝える余地はある」と力を込める。
「全社一丸となってリニューアルに取り組んだ自信作。今後も商品の魅力そのものを伝えていきたい」
黄金の味 エバラ食品工業が1978年に発売した焼き肉のたれ。「甘口」「中辛」「辛口」があり、210グラム入り330円、360グラム入り430円、480グラム入り570円のほか、42グラム入りが三つ入った小分けタイプ240円などもある。