「結婚だけが女性の幸せではない!」 これが現代のアイドル MV撮影でウエディングドレス着用を拒んだアンジュルム・和田彩花

6月18日の日本武道館公演でグループから卒業するアンジュルムの和田彩花さん。4月10日にリリースされた和田さんにとってのラストシングルに収録されている『恋はアッチャアッチャ』のミュージックビデオでは、息を呑むような美しさのウェディングドレス姿を披露しています。しかし、この撮影時にちょっとした悶着があったというのです。

参考資料:アンジュルム・ラストシングルMV『恋はアッチャアッチャ』

4月23日にタワーレコード川崎店で行われたリリース記念トークイベントで和田さんはこんな裏話を披露したそうです。

常日頃から、「結婚だけが女性の幸せではない」ということを訴えてきた和田さん。しかし、アンジュルムとしてのラストシングルのミュージックビデオで用意されていたのが、まさかのウェディングドレス。この衣装を着ることを知らされていなかった和田さんは、当日現場で着たくないとマネージャーに主張。ついには言い合いになり、号泣したというのです。

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もちろん、最終的に和田さんはウェディングドレスを着て撮影に挑み、完成した作品では最高の笑顔をみせているわけですが、その心の中には複雑な思いがあったのです。

現役の大学院生として美術史を研究している和田さんは、雑誌『blt graph.』vol.41(東京ニュース通信社)に掲載されたインタビューでこんな発言をしています。

「大学で美術の勉強をしていると、その時代その時代の女性のあり方について学ぶ機会が多いんです。そこで学んだことは、アイドルをやっている自分にもすごく影響したりするんですね」

さらに、『CDジャーナル』2019年5月・6月合併号(シーディージャーナル)でのインタビューでは、美術を通して考えさせられる「女性のあり方」について、こんな例を挙げています。

「たとえば昔の話ですけど、女性がお家のなかにいなくてはいけないとか、お仕事もできない人も多かったわけで。そういう中で作品ができていったのを知ったときに、現実にはこういう世界があるんだと知って。さらにそれを問題として見ると、自分のアイドル活動をすごく重なるところがあった」

どの時代にも「女性は〇〇でなければならない」といった固定観念のようなものがあり、和田さんはそこに疑問を抱きながらアイドル活動を続けてきました。そして、その固定観念の代表的なものが「結婚こそが女性の幸せである」という考え方なのです。もしも、最後のシングルでウェディングドレスを着れば、「女性のゴールは結婚」といった固定観念を肯定しているかのように見えてしまうのではないか──きっと和田さんはそう思って、ウェディングドレスを着ることを拒否したのでしょう。

アンジュルムのリーダー、そしてハロプロ全体のリーダーを務めた和田彩花さん(画像は著書『美術でめぐる日本再発見 ー浮世絵・日本画から仏像までー』より)

和田さんは、「アイドルの幅を広げたい」と常日頃から話しています。それは「女性は〇〇でなければならない」といった考え方だけでなく、「アイドルは〇〇でなくてはならない」といった考え方にも疑問を呈しているということです。だからこそ、アンジュルムでは“多様性”が重要視され、メンバーそれぞれの趣味趣向、個性、やりたいことなどを尊重する方向性が打ち出されていました。

そういった状況の中で、「女性は〇〇でなければならない」の象徴と捉えられかねないウェディングドレスを着たならば、自身の考え方と矛盾するだけでなく、アンジュルムの方向性とも矛盾してしまいます。和田さんがウェディングドレスを拒んだのは、ただ単に自分の思想と異なる表現をしたくなかったからというだけでなく、アンジュルムの向かう未来の妨げになると考えたからなのかもしれません。

もしも、卒業後の和田さんであれば、ウェディングドレスを着ることはなかったでしょう。でも、今回はマネージャーと言い合いになりながらも結局はウェディングドレスを着ました。しかも、メンバーたちにその姿がきれいだったと言われ、「ま、いっか」という気持ちになったといいます。

つまり、和田さんは、ウェディングドレスを単純に美しい存在として認識するメンバーたちの考えを受け入れたということです。多様性が重要視され、個人の思想が尊重されるアンジュルムの中で、和田さんは自分の思想よりも、メンバーたちの素直な気持ちを優先したのです。たしかに和田さん的には不本意かもしれませんが、アンジュルムへの置き土産としてはこれほどまでに美しいものはなかったはずです。

YouTubeの番組『アプカミ#132』において、『恋はアッチャアッチャ』のミュージックビデオ撮影メイキングが配信されています。そこでZUMI監督は、和田さんのアンジュルム卒業を祝福する場のメタファーとして結婚式場というシチュエーションを作ったと説明しています。「結婚」や「ゴール」の象徴ではなく、あくまで「祝福」の象徴としてのウェディングドレスであり、だからこそ新郎もいなければ、バージンロードを一緒に歩く父親もいないのでしょう。

参考資料:YouTube番組『アプカミ#132』 ミュージックビデオ撮影メイキング動画

また、相手がいない状態なのに、ウェディングドレスを着て、その様子を多くの人に祝福されるというシチュエーションからは、「結婚」というシステムに対する強烈な批判的精神を感じ取ることができます。パラドクシカルではあるものの、「結婚だけがゴールではない」という和田さんの考えが、結果的に表現できたということでもあるのです。このように深読みをすれば、むしろ和田さんの思想を反映したウェディングドレスだったと考えられるのです。

最後の最後まで「女性のあり方」に苦悩した和田彩花。でも、多様性を実現するアンジュルムにおいて、その苦悩をメンバーたちに押し付けることはしかなったのです。後輩たちを下手に“和田彩花色”に染めたくない、後輩たちにはのびのびと自分の思う方向に進んでほしい──そんな和田さんの願いが表れたミュージックビデオだったと言えるでしょう。

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和田さん自身は、その気持ちのすべてを語るタイプではなく、心の奥底で何を考えているかは本人にしかわかりません。だから、ここに綴られた内容は想像の域を出ないものです。でも、和田さんが苦悩の末にウェディングドレスを着たという事実を知れば、その美しさもより輝くものになるはずです。どうぞ、コミカルな楽曲イメージからは想像できないほどの複雑な思いが入り混じる『恋はアッチャアッチャ』のミュージックビデオをご堪能ください。(文◎大塚ナギサ)

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