水谷豊の監督2作目がいよいよ公開! サスペンス映画「轢き逃げ-最高の最悪な日-」

水谷豊の監督2作目がいよいよ公開! サスペンス映画「轢き逃げ-最高の最悪な日-」

処女作「TAP -THE LAST SHOW-」(2017)に続く、映画監督第2弾「轢き逃げ‐最高の最悪な日‐」が劇場公開される俳優・水谷豊。轢き逃げ事件を起こしてしまった2人の若者と、その事故で一人娘を失った両親の双方の葛藤を描きつつ、人間の心の奥底にある闇を焙り出していくサスペンス映画だ。

──そもそも映画監督をやろうと思ったきっかけは?

「僕が23歳の頃、工藤栄一監督に大変お世話になったのですが、その際に監督をやれと言われたことがあるんです。それも、今すぐやれと。しかし、当時は僕も俳優の仕事が忙しくて時間がありませんでしたし、だいたいなぜ監督をやれと言われるのか全く分からなかった。それでもずっと自分の頭の片隅には工藤監督の言葉が残っていて、40年以上を経てようやく監督をするチャンスに巡り合えたというわけなんです」

──今回はどうして“轢き逃げ”という題材を選んだのでしょうか?

「前作『TAP -THE LAST SHOW-』を撮った際に、映画監督をやると決めたからにはずっと続ける、そういう覚悟がなければいけないとの思いがありました。俳優として名前があるから監督をやってみましたというのは、あまりにもほかの監督さんたちに失礼ですから。ならば2本目はどうしようと考えていたところ、プロデューサーから“水谷さんが考えるサスペンスを見てみたい”と言われまして、その2日後くらいですかね、そうだ、“嫉妬”をテーマにしようと考えたんです。世の中には嫉妬することで更に頑張れる人もいれば、反対に嫉妬に取り憑かれて堕ちていく人もいる。これは面白いかもしれないと。ただ、それがなぜ“轢き逃げ”を巡る話になったのかは、実は僕にもよく分からないんです(笑)」

──脚本を書く上で苦労されたことはありますか?

「まずは、サスペンスを通して人間の心の内側を描きたいというのが土台にあり、そこから登場人物の設定などを構想していくうち、自然とストーリーが出来上がっていったという感じですね。あまり難しいことは考えていない。途中からは、キャラクターが勝手に動き始めたような感覚がありました。ただ、人間の行動には必ず理由があります。それを無視するとドラマに説得力がなくなってしまう。そこは常に留意しましたね」

──映画監督としてのこだわりは?

「僕は若い頃からずっと“人間”に興味があるんです。人間というのは計り知れないものだと思うんですね。自分自身にしたって、今まで知らなかった別の自分が突然現れることもある。いまだに人間という存在がよく分からない。だからこそ、その心の奥底にあるものを描いてみたいと強く思うわけです。あと、これは芝居をする時もそうなのですが、僕は一つのことに縛られるのが嫌なんですね。なので、コメディであれシリアスであれ、どのような演出がその作品にふさわしいかを考えるようにしています」

──影響を受けた映画監督はいらっしゃいますか?

「この方に、こういう影響を受けたという明確なものはないですが、僕はいつも映画を見る際、勉強としてではなく純粋に娯楽として楽しんでいます。確かに意識して学ぶことも大切ですけれど、最終的には無意識のうちに自分の中にあるもの、つまり自分が実際に見聞きして経験したものが作品に現れると思うんです」

──監督をするようになって映画の見方は変わりましたか?

「それはないですね(笑)。今でも相変わらず映画を楽しんでいますよ。劇場の椅子に座って、さあ、これから映画が始まるという時のワクワク感がたまらなく好きですね」

──これまで見た作品で強く印象に残っているものは?

「確か当時、僕は高校生の頃に観た『俺たちに明日はない』がとにかく衝撃でした。ラスト、主人公のボニーとクライドが警察から一斉射撃を受けますよね。あれですよ、あのショッキングなシーン。“映画を観に行けば何かあるぞ”と思わせてくれるきっかけになった作品です。それ以来、映画を観に行くという行為そのものが、僕にとってちょっと特別なことになりましたね」

──思春期にアメリカン・ニューシネマの洗礼をもろに受けたわけですね

「まさにそうなりますね。もちろんヨーロッパ映画も大好きなのですが、気が付くとアメリカ映画に憧れていました。元々、僕は東京の立川市で育ったんですよ。当時はまだ米軍基地があって、しかもベトナム戦争の真っ最中で、基地の滑走路から数分のところに実家がありました。周りにもアメリカ人がたくさん住んでいたり、そうした環境も少なからず僕に影響を与えたのかもしれません。アメリカン・ポップスも好きですし、アメリカのダイナーにも強い憧れがあります」

──ちなみに、水谷さん自身が嫉妬を覚えることはありますか?

「僕はうれしくて嫉妬する人間なんですよ。良い映画を見た時などは特に! 羨望みたいなものですかね。素直にうらやましいなと思うんです。それが僕にとって、次の仕事へのモチベーションにもなる。なので、これからも常に嫉妬していたいですね」

【プロフィール】


水谷豊(みずたに ゆたか)
1952年7月14日生まれ。北海道出身。蟹座。A型。近年の出演作に映画「王妃の館」(15)、ドラマ「無用庵隠居修行」(BS朝日)などに出演。映画「TAP -THE LAST SHOW-」(17)で映画監督デビューを果たし、自ら主演も務めた。

【作品情報】


「轢き逃げ ―最高の最悪な日―」
5月10日(金)公開
大手ゼネコン社員の宗方秀一(中山麻聖)は、車で若い女性を轢き、助手席に乗っていた同期で親友の森田輝(石田法嗣)とともに現場から逃走してしまう。一方、突然の娘の死を受けいれられない時山光央(水谷)は、轢き逃げ事件現場に足を運び…。

【番組紹介】


マイチョイス:水谷豊
5月2日(木)
[BS][4K]スターチャンネル1 午前10:45~11:00ほか

著名人が、愛する映画や映画愛について語る特別番組。5月は俳優・映画監督の水谷豊が、自身が多大な影響を受けた「俺たちに明日はない」(67)、「理由なき反抗」(55)、「15時17分、パリ行き」(18)の3作品を紹介する。当3作品は5月8日(水)、9日(木)、10日(金)にそれぞれ放送があり、11日(土)一挙放送がある。

「俺たちに明日はない」
スターチャンネル1
5月8日(水) 午後6:00~8:00

「理由なき反抗」
スターチャンネル1
5月9日(木) 午後6:00~8:00

「15時17分、パリ行き」
スターチャンネル1
5月10日(金) 午後6:00~7:45

撮影/中越春樹 取材・文/なかざわひでゆき

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