令和の風は

 小声で繰り返すうちに、ようやくそらで言えるようになった。〈時に初春の令月にして、気淑(きよ)く風和らぐ〉。季節は早春のよき月、空気は爽やかで風も穏やか-という「令和」の由来になった万葉集の文は、新しい時代に入った気分を言い表すようでもある▲1日午前0時へのカウントダウンに始まり、明るい前途を祈念して、あちらこちらでお祝いの催しが続いている。新鮮な、爽やかな空気が列島を包む▲風もまた穏やかに新時代に入った。天皇陛下は即位後の儀式で「常に国民を思い、寄り添いながら」、象徴天皇の務めを果たすと述べられた。そのお言葉は、幾たびも自然災害に襲われたりして、人を支え、人と人とが支え合う大切さがいわれるこの時世を、よく表すように聞こえる▲詩人の吉野弘さんに、風にまつわる「生命は」という一編がある。生命は自分だけで完結できるものではない、花の受粉にはめしべとおしべだけでは不十分だ、と書く▲〈虫や風が訪れて/めしべとおしべを仲立ちする/生命は/その中に欠如を抱き/それを他者から満たしてもらうのだ〉。このように詩は続く▲生命を保つには、仲立ちをする風、誰かの力が欠かせない、と。社会を守っていくのも同じだろう。人を支え、人と人をつなぐ令和の風がきよく、穏やかに吹くことを。(徹)

© 株式会社長崎新聞社