データで見る! アメリカの移民の現状とこれから

就任以来、移民規制を打ち出すトランプ大統領。しかし、多くの大企業を設立するなど、移民が米国経済に大きく貢献しているのも事実。中米諸国からアメリカを目指す移民集団「キャラバン」など移民問題に注目が集まる昨今。今一度、データを通してこの国の移民事情を見てみましょう。
※本特集で言う「移民」とは基本的に、「滞在ステータスがなんであれ(市民権でも永住権でもその他ビザでも不法滞在でも)、アメリカ国外で生まれて現在アメリカに住んでいる人」を指します。

塗り替えられる移民地図

アメリカの歴史は移民の歴史と大きく重なります。もともとアメリカには、1万年以上前にアジアからアメリカン・インディアンたちが移住してきたと言われています。その後、1620年の「ピルグリム・ファーザーズ」(信仰の自由を求めてイギリスから移住してきたピューリタンたち)を足掛かりに、17世紀初頭〜19世紀後半、イギリスやドイツなど西、北ヨーロッパから移民が、さらにアフリカから奴隷が大西洋を渡って来て、建国の礎となりました。

その後約40年ほどの間に、イタリアやポーランドなどヨーロッパ南・東部から移民が流入し、アメリカの全人口に対する移民の割合は1890年に14.8%とピークを迎え、1892年にはニューヨークのエリス島に移民局ができました。アメリカ人5人のうち2人の先祖はここを通って来たと言われています。

その後、新旧移民で衝突が生じ、国籍別移住割当枠が設けられて移民は減少しますが、公民権運動に押され、1965年に割当枠を廃止した新移民法が制定されると、1970年代以降、ヒスパニックやアジアからの移民が急増しました。こうして「移民地図」は大きく塗り替えられ、1970年、移民内シェアで68%と多数派だったヨーロッパ系は、2016年、13%まで転落。センサス(国勢調査)によれば、2044年にネイティブを含む全米のヨーロッパ系人口は全人口の半数を割り込み、最大の少数派になると見られています。

データ1:移民人口の推移

出典:「Record 44.5 Million Immigrants in 2017」(Center for Immigration Studies)

2017年、アメリカに住む移民は4450万人と過去最高を記録。人口の約1/7は移民という計算です。2060年の移民は6930万人(全人口の17.1%)に上ると推計されています。

データ2:年齢別人口構成比

出典:「Age-Sex Pyramids of U.S. Immigrant and Native-Born Populations, 1970-Present」(2016, MPI)

移住の理由の多くは求職のため、ボリュームゾーンは働き盛りの20~54歳。子どものみの移住や高齢者の移住は少なく、移民の人口ピラミッドはダイアモンド型になります。

データ3:移民の滞在ステータス

出典:「Foreign-born population estimates, 2016」(Pew Research Center)

2016年、移民の76.3%、3440万人は合法滞在。不法移民の数は1990年から増え続け、2007年には1220万人までに。リーマンショックで約100万人減り、そこからは横ばい状態。

アジア系移民が最大勢力に

同じくセンサスによると、2017年、アメリカに住む移民の人口は4450万人で、全米の人口比にして13.7%でした(移民の多い州はデータ④参照)。内訳(※2016年データのため参考値)は、メキシコからの移民が約1160万人と一番多く、2位の中国(約270万人)を大きく引き離していますが、新規移民に限れば、2010年以降、アジア系が最大勢力です(データ⑦参照)。

続いて、移民の滞在ステータス(2016年)を見てみると、市民権44.7%、永住権27.0%、合法的な一時居住者4.6%(データ③参照)となっています。同年、不法移民は約1070万人いると見られており、出身地の内訳はメキシコの545万人を筆頭に、中米185万人、アジア130万人、南米65万人、ヨーロッパとカナダ50万人など(Pew Research Center)。また、不法移民が多い都市のトップ3はニューヨーク(115万人)、ロサンゼルス(100万人)、ヒューストン(57.5万人)でした(2014年、Pew Research Center)。

データ4:移民の多い州

出典:「Nativity, by state: 2016」(Pew Research Center)

移民は西海岸、東海岸の州に多く分布。特にカリフォルニア州の移民の多さは突出しており、全人口の実に27.2%が移民です。不法移民もこれら移民の多い州に集まっています。

データ5:移民の出身エリア比率推移

出典:「Main Source Countries / Regions of Immigrants」(2015, MPI)

1960年に移民の8割はヨーロッパやカナダ出身でしたが、1965年の
新移民法で出身国の割り当て制限が廃止されて以降、メキシコ、アジ
アからの移民が急増しました。 ※図内の人数は2015年のもの。

データ6:移民の出身国上位

出典:「Top fi ve countries of birth for immigrants in the U.S. in 2016」 (Pew Research Center)

米国に居住する全移民の出身国別割合で
は、メキシコが全体の26%(1160万人)を
占め、中国の6%(270万人)、インドの6%(240万人)がそれに続きます。

データ7:アジア人とヒスパニック

の到着移民の割合

出典:「% of immigrants arriving in the U.S. in each year who are...」(2016, Pew Research Center)

2010年以降、新たに移住する者の割合ではアジア系がヒスパニックを逆転。2016年には、移民全体の37.1%となり、ヒスパニックの31.0%を大きく引き離すまでになりました。

世帯収入の高いアジア系移民

移民の生活を考える上で、注目すべきデータがあります。Center for Immigration Studiesの報告(2014年)によると、英語が「十分でない、もしくはほとんど全く話せない」という人の割合が一番高い移民は、ヒスパニックで43.6%。国別ではグアテマラが48.7%%と一番高く、ホンジュラス(48.6%)、メキシコ(47.1%)と続きます。この値はヨーロッパ系12%、アジア系21.5%(日本は17.5%)、アフリカ系8.5%に比べて突出しています。同機関は、「言語は移民の収入の鍵であり、ラテンアメリカ出身者の高い貧困率や保険未加入率、福祉利用率は言語によるところが大きい」、と分析しています。ちなみに、2016年、全移民の家庭で最も話されている言語はスペイン語(43%)でした(データ⑧参照)。

ただ、世帯収入を見てみると(データ⑨参照)、収入と英語の巧拙の間に興味深い関係が現れます。2017年、ネイティブの6万1987ドルに対し、移民全体は5万7273ドルでしたが、内訳を見ると、英語が得意なアフリカ系(4万8232ドル)やヨーロッパ系(5万7382ドル)を、英語で劣るアジア系が7万2583ドルと上回っているのです。ちなみに、ヒスパニックは3万9732ドルでした(2015年、Center for Immigration Studies)。

データ8:米国における移民の言語

出典:「Languages spoken among U.S. immigrants, 2016」(Pew Research Center)

5歳以上の移民が自宅で話す言語の割合です。ヒスパニックの母語であるスペイン語の話者が43%と圧倒的に多く、英語の話者は16%に過ぎません。ちなみに、「英語が堪能」な移民は1980年の57.2%から2014年には51.0%に低下しています。

データ9:移民の世帯収入(中央値)

出典:「Income and Poverty in the United States: 2017」(U.S. Census Bureau) ※出身エリアでの内訳は2015年のデータ

2017年のセンサスによると、移民の世帯収入の中央値は市民権の有無で大きく異なります。市民権が「あり」の場合は6万5859ドルとネイティブより高くなりますが、「なし」の場合は4万9739ドルと、1万ドル以上下がります。

二極化する移民の生活

一方、学歴を見てみると(データ⑩参照)、大卒以上については南および東アジアの移民が52%、中東47%、ヨーロッパ系43%と、ネイティブの32%を大きく引き離しています。また、メキシコの6%という低い数字も目立ちます。しかし、高卒未満となると、メキシコが57%、中米49%、カリブ海25%とネイティブの9%より高くなり、言語よりも学歴が収入に影響を与えていることが伺えます。

2017年、アメリカの移民労働者は2740万人で、労働市場全体の占有率は17.1%でした(US Dept. of Labor, BLS)。しかし、業種によって事情は大きく異なり、移民の占有率が高い業種を見てみると、清掃・メンテナンス業が、37.44%、農林水産業36.92%、建設・採掘業30.39%など、単純労働分野で働く移民が多いことが分かります(データ⑪参照)。一方、高度な専門知識が求められるコンピューター・数理業は26.15%、自然科学・社会科学関連は22.98%と、移民の労働現場が二極化していることが伺えます。

データ10:移民の最終学歴

出典:「Educational attainment among U.S. immigrants in 2016」(Pew Research Center)

大卒以上は、南及び東アジアや中東などがネイティブより圧倒的に高くなります。逆に中米、メキシコ出身の移民の高卒以下の割合の高さも目立ちます。

データ11:主な職業の移民人口比

出典:「FOREIGN-BORN WORKERS: LABOR FORCE CHARACTERISTICS - 2017」(US Dept. of Labor, BLS)

マネジメントや専門性の高い業種に携わる移民は少ない傾向。ただ、コンピューター・数理業など高度な知識が必要な仕事に携わる移民も少なくありません。

奮闘する移民第二世代

次に大人の貧困率を見ると、ネイティブが11.9%、移民全体は17.7%で、福祉サービスの利用率は、ネイティブが26.9%、移民全体は42.4%。このように、移民第一世代は財政の負担になりがちですが、子どもの教育に力を入れる傾向にあります。実際、2012年の移民の子ども(2世)の大卒率は36%と全米の子ども(31%)を5ポイント上回るほか、成人後の貧困率も11%と、全米平均の13%を下回ります。また『The Washington Post』は2011〜13年のデータとして、 移民は全体で、州や地方自治体に年間574億ドルの負担となるが、その子どもたちは年間305億ドルを生む、と報じています。

データ12:移民の出生率

出典:「Total Fertility Rate, 2006 to 2015」(Center for Immigration Studies)

女性が一生で産む子どもの数を示す「出生率」。ネイティブより移民の数値が高く、特にアフリカ系、ヒスパニックが数字を押し上げています。 ※図内の%は2015年のもの。

データ13:移民の家計事情

出典:「A profi le of the foreign-born using 2014 and 2015 Census Bureau data」(2016, Center for Immigration Studies)

大人の貧困率は全世代で移民がネイティブを上回ります。また、移住して間もない方が長年住んでいる移民よりも貧困率が高いことが見て取れます。

データ14:移民の健康保険の未加入率

出典:「A profi le of the foreign-born using 2014 and 2015 Census Bureau data」(2016, Center for Immigration Studies)

低賃金の職業では、勤務先が保険に加入していないことが多い上、収入が低い
ため、自身での保険購入もできず、未加入率が高くなります。ちなみに、保険の
未加入率も学歴の高低に概ね比例しています。

データ15:移民の収監率

「U.S. Census Bureau’s American Community Survey」をベースにMichelangelo Landgrave、Alex Nowrastehが独自集計

2016年の収監者は約212万人で、収監率は10万人当たり、ネイティブが1521人、不法移
民が800人、合法移民が325人で、収監者全体に占める移民の割合は7.6%でした。

移民肯定化に傾く世論

移民の子どもたちの中には親世代の環境を抜け出し、夢をつかむ人も多数出ています。例えば、Apple創業者のスティーブ・ジョブズの実父がシリアからアメリカに移住しなければiPhoneは存在せず、ウォルト・ディズニーの父親がカナダから移住していなければ、ディズニーランドは存在しませんでした。マクドナルド兄弟の父がアイルランドに留まっていれば、マクドナルドのハンバーガーも食べられなかったでしょう(データ⑰参照)。

こうした移民に対し、1994年の世論調査では「アメリカ人から仕事を奪い、住宅や医療面で国の負担になる」と答える人が63%と多数派でした。しかし、その値は徐々に下がり、1999年頃からは肯定的な意見が否定的な意見を上回り始めます(データ⑱参照)。時あたかも、移民やその子どもたちが次々と世界的なハイテク産業を成功させていく時期でした。そして、2017年には否定派26%に対し、肯定派は65%までに。ちなみに、移民に対する考えは支持政党によって大きく異なり、2017年、移民肯定派は、民主党派が84%ですが、共和党派は42%に留まっています。ただ、18〜29歳では民主党派が94%に対し、共和党派でも62%が肯定的で、若い人は移民を肯定的に受け止める傾向があります(2017年、Pew Research Center)。

データ16:トランプ大統領の移民政策

移民に対して厳しい姿勢を崩さないトランプ大統領。国内では非難の声も多い一方、根強い支持者が大勢いるのもまた事実です。

◉2017年1月
・メキシコ国境に壁を建設する大統領令を発布
・イスラム教徒の多い中東・アフリカ7カ国の入国規制
・シリア難民受け入れを無期限停止、他国の難民受け入れも120日間停止
・全体の難民受け入れを年5万人に制限

◉同4月
・外国人科学者や技術者などを対象とするH-1Bビザの審査強化

◉同9月
・不法入国した子どもの強制送還猶予策「DACA」の打ち切り発表

◉同12月
・国連の「移民に関するグローバル・コンパクト」策定プロセスから離脱を発表

◉2018年1月
・ハイチやエルサルバドル、アフリカ諸国の移民を「 肥溜めみたいな国から来た人」と侮蔑

◉同4月
・不法移民親子を引き離す「ゼロ・トレランス」(不寛容政策)発表、6月に撤回

◉同10月
・米国籍の出生地主義について廃止方針を示唆
・ホンジュラスなどからの移民集団「キャラバン」対策でメキシコ国境に米軍5200人派遣を発表

◉同11月
・メキシコと接する米国南部の国境から不法入国した移民は難民申請できないルールを発表

データ17:移民2世が創業した巨大企業

多くの世界を股にかける巨大企業が、移民2世によって設立されています。こういった企業は移民国家アメリカの象徴とも言えるでしょう。

・Apple スティーブ・ジョブズ(父がシリア出身)
・Amazon.com  ジェフ・ベゾス(養父がキューバ出身)
・The Walt Disney Company ウォルト・ディズニー(父がカナダ出身、一族はアイルランド出身)
・McDonald's  マクドナルド兄弟(両親がアイルランド出身)
・General Electric  トーマス・エジソン(父がカナダ出身)
・IBM  ハーマン・ホレリス(両親がドイツ出身)
・Heinz  ヘンリー・ハインツ(両親がドイツ出身)

データ18:移民に対する世論

出典:「% who say immigrants today...」(2018, Pew Research Center)

最近の移民に対する世論は肯定派が多数。ただ、支持政党(本文参照)や人種(アジア人肯定派が47%に対してヒスパニックやアフリカ系肯定派は26%など)でも変わってきます。

データ19:各産業における移民( or その子ども)が創業者の企業

※「フォーチュン500」のうち)

出典:「Immigrant Founders of the 2017 Fortune 500」(Center for American Entrepreneurship)

ビジネス誌、『Fortune』が発表した全米の総収入上位500社(2017年)のうち、43%は移民ないしはその子が創業した会社で、中でもハイテク産業は45社、46%に上りました。

労働市場を支える移民

トランプ大統領は母親がスコットランド出身、妻がユーゴスラビア出身ですが、移民の規制を最重要公約の一つに掲げており、メキシコ国境に壁を建設する大統領令に署名したほか、不法移民親子を引き離す「ゼロ・トレランス」(不寛容)政策を発表(後に撤回)するなど、強硬策に出ています(表⑯参照)。しかし、移民はトランプ大統領が指摘するような犯罪集団ではありません。例えば不法移民であっても、10万人あたりの収監者数で言えば、ネイティブの53%に過ぎません(前項データ⑮参照)。2004年に制作された映画『A Day Without a Mexican』(2004)では、ヒスパニック系移民が消えたカリフォルニアの生活を風刺し、道端にゴミがあふれ、道路工事や建設業が一向に進まず、社会的機能がストップする様が描かれています。移民は現代アメリカ社会を支える重要な労働力になっているのです。

共存でアメリカ社会が前進

さらに、移民たちが作り出したPfizerやIntel、Googleなどはどれもアメリカを代表する大企業であり、数万人のネイティブを雇用しています(表⑳参照)。また、2000〜17年、「アメリカ人」としてノーベル賞(化学賞、生理学・医学賞、物理学賞)を受賞した人の39%、33人は移民という事実(表㉒参照)も見逃せません(Royal Swedish Academy of Sciences)。

まもなくクリスマス。クリスマスツリーや真っ赤なサンタクロースはドイツ移民が広めたものですし、フライドチキンはスコットランド移民が持ち込んだ鶏肉の調理方法をベースに奴隷の調理人がアレンジしたもの。移民が持ち込んでアメリカで一般化したものは非常に多いのです(表㉑参照)。サラダボウルのこの国は、移民とネイティブが新たな価値をミックスして、前へと進んでいるのです。

データ20:大企業のルーツ

データ21:移民が持ち込み、米国社会で一般化したもの

<文化・行事>
幼稚園(ドイツ)
復活祭のうさぎ(ドイツ)
「死者の日(Dia de Muertos)」(ラテンアメリカ)
ハロウィン(アイルランド)
赤い服のサンタ・クロース(ドイツ)
クリスマス・ツリー(ドイツ)
ジーンズ(ドイツ移民のリーヴァイ・ストラウスが製造販売)

<食べ物>
ホットドッグ(ドイツ)
オートミール(スコットランド)
フライド・チキン(スコットランド、黒人奴隷)
ベーグル(ユダヤ)
寿司(日本)
タコス(メキシコ)

データ22:著名な民やその子ども

<学界>
アルバート・アインシュタイン(物理学者、ノーベル物理学賞、ドイツ)
南部 陽一郎(物理学者、ノーベル物理学賞、日本)
ウイリアム・ピカリング(ロケット科学者、ニュージーランド)

<政界>
ドナルド・トランプ(大統領、母親がスコットランド)
メラニア・トランプ(ファーストレディー、ユーゴスラビア)
ヘンリー・キッシンジャー(国務長官、ノーベル平和賞、ドイツ)

<スポーツ>
ジェレミー・リン(バスケットボール、両親が台湾)
大坂 なおみ(テニス、父がハイチ、母が日本)
ペドロ・マルティネス( 野球、ドミニカ共和国)

<映画>
アルフレッド・ヒッチコック(映画監督、イギリス)
ブルース・ウィリス(俳優、ドイツ)
ジョージ・タケイ(俳優、父が日本、母が日系2世)

<芸術・その他>
セルゲイ・ラフマニノフ(ピアニスト、指揮者、ロシア)
ジョセフ・ピュリッツアー(ジャーナリスト、ハンガリー)
ウルフギャング・パック(料理人、オーストリア)

※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版 2018年12月16日号」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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