視覚障害者用碁盤「アイゴ」世界へ 囲碁のまち平塚で開発

アイゴの改良版開発に取り組む山口さん(右から1人目)と木谷さん(同3人目)ら=平塚市万田の「しんわやえくぼ」

 視覚障害者用に商品化された碁盤「アイゴ」の普及に向けて軽量、低価格に改良した新型の開発が「囲碁のまち」の平塚市内で進んでいる。碁盤の製作に加わるのは福祉施設を利用する知的障害者たち。5月に岩手県大船渡市で開かれる復興イベントでお披露目される予定で試作版の製作が急ピッチで進む。視覚障害者には娯楽と生きがいを、知的障害者には働く場を-。関係者は「囲碁のまちづくりに視覚障害者も知的障害者も参加できる。多くの人に福祉の現場を知ってもらいたい」と期待を寄せている。

 アイゴは升目の線が盛り上がった特殊な碁盤。碁石の裏に溝が刻まれ、升目の線にはめ込む。黒の碁石の表面に小さな突起があり、指先で触った感覚から碁盤を読むことができる。

 もともとは1980年ごろに発売されたが、長らく生産停止状態になっていた。日本視覚障害者囲碁協会代表理事の柿島光晴さん(41)=東京都町田市=が2013年に復活させ商品化。全国の盲学校にアイゴを寄贈し、視覚障害者への囲碁普及に奔走している。

 従来のアイゴはプラスチック製で、福岡県内の工場で金型から成形し製造している。大量生産はできるものの、縦横19本の線がある19路盤は重さが1.3キロあり、値段も1万3680円と高めなのが悩みの種だった。

 「持ち運びもできるように軽くして、値段も安ければもっと普及できる」。柿島さんとともに県立平塚盲学校で囲碁を指導する木谷正道さん(71)=平塚市=らボランティアが動いた。

 そのうちの1人、エンジニアでもあった山口晴夫さん(70)がレーザーカッターによる新たな製作方法を思いついた。パソコンに入力したデータを元にレーザーカッターが木質ボードを切断、切り取られた部品を手作業で組み立てていくという手法だ。

 木谷さんの紹介で商品製作には知的障害者の就労支援施設「しんわやえくぼ」(平塚市万田)が手を上げた。同施設では障害者らが車の部品や陶器なども作っており、「根気強い作業も丁寧にできる」と木谷さんは太鼓判を押す。

 従来の半額以下にコストを抑え、来年の一般販売を目指し、現在は同施設で試作品の製作が重ねられている。大型連休明けには試作作業に施設利用者も加わる予定だ。

 試作品は東日本大震災被災地の大船渡市で行われる「碁石海岸で囲碁まつり」(5月9日~13日)でお披露目される。盲学校生徒による囲碁の全国大会も行われ、招待され来日する台湾や韓国の生徒たちにお土産としてプレゼントする。

 視覚障害者にとっては囲碁ができる喜びは大きい。都内で視覚障害者らの囲碁サークルを運営する岡村晴朗さん(68)は30代で視力を失い「趣味の囲碁ができなくなったのが悔しかった。でも30年が過ぎ、また囲碁ができるようになった」と生きがいを感じる。

 20歳で失明した柿島さんも同じ気持ちだ。「囲碁は(娯楽が少ない)視覚障害者にとっては新しいゲームと同じ。データをネットで公開し、レーザーカッターさえあれば世界中の人がアイゴを自分で作れるようにしたい」と夢を膨らませている。

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