新連載「ミャンマーの民族」 第3回「カチン族」Ka Chin カチン州は、ミャンマーの北部に位置し、Irrawaddy とChin Dwin川の源流にあるエリアだ。川の流域を山々が連なり、他州とはかなり趣を異にしている。 「カチン」と言う言葉は、ビルマ語(ミャンマー語)だが、カチン民族は彼ら自身のことををカチン語で「Jingpo」(ジンポ人)と呼ぶ。「人間一人ひとり」という意味を持ち Jingpo, Maru, Lashi

カチン州は、ミャンマーの北部に位置し、Irrawaddy とChin Dwin川の源流にあるエリアだ。川の流域を山々が連なり、他州とはかなり趣を異にしている。 「カチン」と言う言葉は、ビルマ語(ミャンマー語)だが、カチン民族は彼ら自身のことををカチン語で「Jingpo」(ジンポ人)と呼ぶ。「人間一人ひとり」という意味を持ち Jingpo, Maru, Lashi

新連載「ミャンマーの民族」 第3回「カチン族」Ka Chin

「地球」の創生から破壊まで壮大な伝説を継承する不思議な民族 「魔術」や精霊信仰を背景にした独特の文化、慣習を持つ民族

カチン州は、ミャンマーの北部に位置し、Irrawaddy とChin Dwin川の源流にあるエリアだ。川の流域を山々が連なり、他州とはかなり趣を異にしている。
「カチン」と言う言葉は、ビルマ語(ミャンマー語)だが、カチン民族は彼ら自身のことををカチン語で「Jingpo」(ジンポ人)と呼ぶ。「人間一人ひとり」という意味を持ち Jingpo, Maru, Lashi, Atsi, Rawangなどの少数民族と大多数を形成するLisu族を総合して「カチン民族」と呼ばれている。
カチンの伝統的な言い伝えの中には、「地球」と「宇宙」の創造に関しての独特の伝説が残されている。大昔に「Bu San Bu 」と呼ばれる神のような崇高な方がいて、その方が万物を創造できる力を持っていたと信じられている。
この「Bu San Bu」と呼ばれる方は、まずはじめに Fun GanWai Yun とNin GawKya Nunの二人の夫婦を創造した。それから時を経て、その夫婦に「Se Yin」という「藻玉」のような形をした物体を作らせたという。「藻玉」はとび色をした種子で、ミャンマーの子供たちが遊びでよく使用する丸くて平らな玩具に似たモノだった。
その「藻玉」らしきものは次第に大きくなっていき、最後には「地球」の形になった。Fun GanWai Yun 夫婦はその「地球」がさらに強力になるために、石、鉄、鉛、銀、純銀と金、その上に光、暗闇、雲、水、雨、雹、昼、夜、そして東、西、南、北などを付随させた。そしてついには太陽、月、星座、木、竹などを創造したという。それが現在の「地球」と「宇宙」の姿になったという壮大かつ奇想天外な言い伝えである。

カチン民族の誕生

Fun GanWai Yun夫婦は、「地球」を創造したあとで、Kyae Nin Kyin Nin Sanという娘 をもうけた。彼女は、母親のおなかにいるときから言葉を発したという特異な才能を持つ 子供だった。そして、やがて成長した彼女は、地球上にあるすべての事柄、地名などの名づけ親になったという。
Fun GanWai Yun 夫婦は、自らが創造した「地球」に、最後の仕上げとして人間、動物、作物や植物などが生存、生息することを指示した。そして夫婦は 「Ma Htan Ma Htar」と呼ばれる天国へ昇天していったそうだ。こうして夫婦の創造した「地球」は、現在の形、環境になっていったという。カチンの言い伝えでは、地球の滅亡についても伝説が残る。人口が過密化し、人間たちは長きにわたって規則を守らなかったり、不正を働くようになった。そうした人間たちが増えた「地球」を見かねた別の夫婦が、「地球」を破壊したがった。そして新しい「地球」を創造する計画を立てた。
そこで「地球」上ではだれが不正を働いているかを調べた。その結果、 Da RuKya Ni とMa GanSha Piという兄弟、さらにJarnyiとJargarという兄弟の全部で四人だけが正直者だということが判明。その四人を大太鼓のような場所に移住させ、連日雨を降らせ、洪水を起こして「地球」を破壊したという。
その時、水害から逃れた四人のうちJarnyi とJargarの二人の兄弟はかろうじて避難し、生存できた。そしてある日、Ma htwun ma htarという精霊が、彼らが留守のときに、Jarnyiの子供を殺し、その子供の肉で煮たお粥をJarnyiに食べさせた。
そして、精霊はJarnyiに気づかれぬよう他人を魅了させる妖術の霊を身につけさせたという。これが、人間をかどわかしたリ、幻惑させたりする妖術師や魔法使いの誕生の由来だと 信じられている。

「妖術「と「魔術」

カチン民族は「妖術」や「魔術」にも精通している。妖術師には生命が二つあり、一つは普通の命、もう一つは妖術用の命または霊だという。
しかしそうした人間たちは、自分にそのような能力があるとは気づかなかった。占い師による占星術も「魔力」なのかどうか、意見が分かれた。他人を魅了させるために呪うと、その呪った分だけ他人はより信心深くなるという。
「妖術」には二種類あるが、「Lamun」 という「妖術」は通常の問題や災難に対処できるとされている。しかし「Yuu」という「妖術」はねずみの格好を変身して、人間の体の中に入って内臓などに噛みついたりするという非常に特殊な術なのだという。カチン民族は家族の中にに魔法使いがいれば、通常はその家族とは関係を持ちたがらないそうだ。
だれかを嫌悪したり、虐められたりしたときや屈辱を受けたときなどは、そうした妖術師が仲間うちにいると、攻撃対象の家族や一族郎党を次第に衰退させる「魔術」が備わるという言い伝えも存在する。
十分な料金を払えれば、魔術師たちは「代わりに」生け贄を捧げることや、神をそそのかして呪うことも行うという。魔術師に頼めば、神さえもそそのかしてしまうといわれるので、紛争中の問題の解決は早いという。当事者同士で話し合いなどをした場合、魔術師に依頼した方は、相手の一族郎党を衰退させるまで呪うこともあるそうだ。
いずれにしてもミャンマー北部のカチン民族には、このような不思議な逸話や伝説が残されている。地球の創生、人類の誕生から地球の滅亡までが描かれた魔訶不思議な世界だ。次号では、カチン民族の種々の占いやお守り、 祭りなどを紹介していこう。

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