チコちゃん(の中の人)に叱られる! キム兄に密室で初対面【瀕死録】

マウスで書いてみたとはいえ下手ですみません。チコちゃんというよりワカメになろうとしてるカツオ。

▼チコちゃんの声をしている人と密室で対面することの怖さも知らずに、毒舌5歳少女チコちゃんから、やれ「ボーッと生きてるんじゃねーよ!」とか「(テレビ的盛り上がりも考えずに)チコって(=正解してる)んじゃねーよ」などと叱られて、喜んでいる日本人のなんと多いことか。

▼「キム兄」こと木村祐一さんの冠番組『木村とご飯』のDVD発売を前に、宣伝担当者の男性からインタビュー取材のお誘いがあり、伺うことにした。2007年6月2日のことである。インタビュー場所は東京・新宿駅直結の劇場「ルミネtheよしもと」楽屋。土曜の昼下がり、時間に余裕を持って家を出ると、携帯が鳴った。宣伝さんからだ。

▼「既に何社かインタビューが終わって、かなり巻いて(「予定より早く進行している」意味)まして、すみませんが、すぐに来れますか?」。ん? 嫌な予感しかしない。小走りで劇場に駆け付け、ゼェゼェ息をしていると、宣伝さんが「早くにありがとうございます。それで、すみません、あの、DVDの話はもう、あまり、しないでいただいて…」とつらそうな顔をして言う。

▼「え?」。(いやいやDVD宣伝絡みのインタビューで、DVDのことに触れるなって? 家でさっきもDVDを見返してから出てきたよ私は。何を言ってるの…)。「じゃ、こちらです」。楽屋のドアの前についてしまい、もう瀕死。

▼<既に複数のインタビューが想定よりもかなり早く終わってしまった>という事実。そして私は今<DVDの話はするなと言われている>。ということは、私より前の取材者とキム兄の相性が、運悪く合わず、DVDについての質問にキム兄が気に入らないものがあった、と推察するしかない。そういう経験は私もある、仕方ない。宣伝さんは自分なりに気を回して言ってくれたのだろうが、それなら取材日延期してくれた方がありがたいですけども…。キム兄と初対面というだけでも、また髪が薄くなりそうなのに、「不機嫌な」がほぼ確定のキム兄は怖すぎるだろ。「停電とか起きてくれ…」。念じたが当時の私はまだスプーンも曲げたことがなかった。

▼コン、コン。宣伝さんがノックしちゃった。恐る恐る楽屋のドアオープン。ソファに険しい表情にしか見えないキム兄。「初めまして。よろしくお願いいたします」。向かいのソファに腰掛ける私。とっさに口から出たのは「木村さん、あの、いよいよあの、『人志松本のすべらない話 ザ・ゴールデン』、今夜放送ですね」。(ぬぉ~、ほんとDVDと全然関係ない話をしてるオレ…)。

▼すべらない話第10弾を数えたその特番に、キム兄は初出場。たまたま私は数週前にスタジオ収録を見学していた。キム兄が披露した外車ディーラーのダメダメ営業マンとの実話『車屋さんのキクチ』は爆笑を何度も巻き起こし、MVS(Most Valuable すべらない話)を獲得したのだった。

▼いきなり「すべらない話」のことを私から振られたキム兄は、一瞬意外そうに「おお、そうやな」と言ったが、すぐにまた険しい顔に。私の人とナリをうかがっているように見える。何汗か分からない汗がドバドバ出てきた。とはいえ、沈黙するわけにいかない…。

▼筆者:「あのディーラーキクチの話は、過去のすべらない話を含めても新鮮でした。最後にオチがあるわけではなく、ですからオチに向かう構成ではなく、だんだんヒューマンドラマみたいな色合いに変わっていって、木村さんとキクチのやりとりが積み重なる面白さ。よくああいうタイプの話をやろうと思いましたですね」

▼キム兄:「ああ、確かにね。自分でもちょっと迷ったんですよ。ただ、あれだけ長い話をする番組ってないでしょ。キクチの話は長さがないと面白くない話やったしね」

▼筆者:「人の関心を素早く引きつけないと、8分とか9分とか、あれだけ長い話はできない気がします。何か気をつけるポイントはありますか」

▼キム兄:「なんやろ、最初にお客さんが、どういう話を聞くのか、どう聞いていいのかいうことを、分かるようにこちらが示すみたいなことかな。ただまあ、あの番組は笑い待ちができないんでね。もちろん松本さんたちが同じテーブルを囲んではいますけど、大勢のゲストの方々は別室で見てるじゃないですか。だからお客さんの笑い声が聞こえない。難しさはありますよ。大事なんは、随分前に起きた話でも、自分がまるで昨日のことのように熱を持って話せる話かどうか、いうことです」

▼筆者:「千原ジュニアさんや宮川大輔さんは『すべらない話の時は他の人の話を聞いている余裕がない』と言っていました。木村さんもそうなりましたですか」

▼キム兄「いや、彼らは多少大げさに言うてると思うけど、確かに次に自分が当たったら、どの話でいこかなぁいう時に、ちょっと構成を考えなあかんっていう時はありますよ。1回も人に話したことがない話もあるわけで。そういう時はちょっと構成を考えるけど、それ以外はむしろ、他の人の話を聞いて、笑ったり、ちょっと突っ込んだりした方がいいんですよ。そしたら声出すでしょ。声出さずにいたら、自分が話す時に声の調節からうまくいかないかもしれないし、早めに番組のあの場の空気に……」

▼あれ? た、楽しい…。キム兄が次第に少し前のめりになって話してくれているではないか。ありがとう宣伝さん、あなたの忖度が私を救いたもうたのです。私は調子に乗って「すべらない話」の爆発的人気について、自分なりの分析を聞いてもらい、放送作家でもあるキム兄にさらに笑いについて聞く。ああもうすげぇ楽しい。奇跡の回復を遂げた私は、晴れ晴れとして「じゃ、最後に、写真を撮らせていただけますか」。

▼するとキム兄が言った。

 「自分、DVDの話聞かんでええの?」

(エ-ッ! シェーッ!! しかもなんですかその、うっかり八兵衛を心配するような、ちょっと呆れたような苦笑は、キム兄。ちょ、宣伝のお兄さん、なんじゃこりゃー、血まみれやないかワシ。私は一度手にした一眼レフをあたふたとテーブルに置き直し、

「あ、聞きます聞きます、そ、そうですよね(笑)今回のDVDが、あの…」

(ん~っ、DVDで聞くべきポイントって何だったっけ…)。私のあちこちからまた、ヘンな汗がドバドバ噴き出してきた。

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第123回=共同通信記者、5さい)

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