宇治茶(映画監督)- 『バイオレンス・ボイジャー』衝撃と王道の化学反応

王道でわかりやすい話しに

──おもしろくてLOFT向きな作品でした。

宇治茶:ありがとうございます。

──この作品はすごく懐かしい空気感のある作品でした。宇治茶監督は1986年生まれとのことですが、ほんとなのかと疑ってしまいました。

宇治茶:結構、言われるんです(笑)。 僕は映画館で観るよりもビデオで観ることが多かったんです。なので古い作品に触れる機会も多く、その影響を受けているのかもしれないです。もちろん『ジュラシック・パーク』などの世代の作品も好きですよ。

──その中でゲキメーションをつくるきっかけになった作品はあるのですか。

宇治茶:楳図かずお原作の、ゲキメーションを取り入れたTVアニメ『妖怪伝 猫目小僧』や、電気グルーヴのMV『モノノケダンス』などの影響が大きいですね。実はアニメはそんなに見てないんです。どちらかというと実写映画、特に70年代・80年代の作品やホラーが好きです。人形をコマ撮りしたり、スーツの中に人が入ったりなどのアナログなテイストが好きなんです。

──その愛は作品からも感じます。こういうアナログな作品は逆に目を引きますし、私個人としても同世代ということもあってか懐かしいなと感じました。

宇治茶:ありがとうございます。

──個性が前面に出たビジュアルですが、ストーリーは王道ですね。

宇治茶:そこはかなり意識しました。前作の『燃える仏像人間』を観ていただいた方から「意味が分からない」と言われたりしましたし、自分で見直しても人様に見せるものじゃないとも思って(笑)。 今回は王道でわかりやすい話しにして、そこに自分の好きなものをぶち込んでいけたらいいなと思って作りました。

──ゲキメーションとともに目を引くキャストのみなさんの豪華さも凄いですね。

宇治茶:声優の方に関しては、プロデューサーの安齋レオさんに助言をいただいて選んでいただきました。田中直樹(ココリコ)さんと高橋茂雄(サバンナ)さんは僕の希望でお願いしたところ、快諾していただけました。田口トモロヲさんに演じていただいた古池は、古池のキャラクターをつくるときに、楳図かずお先生の『神の左手 悪魔の右手』の実写映画版に出演されていらした田口さんの演技をモデルにして作っていたところがあったので、ダメ元でお願いしたところ快諾いただけました。まさかこんなに豪華な方々に集まっていただけるとは思ってもみなかったです。

──希望が反映された形なんですね。演技指導はどのようにされたのですか。

宇治茶:ほとんどしていないです。例えば、悠木碧さんであれば「男の子のような演技を」とお願いしたところ、最初にしていただいた演技がバッチリで、そのまま演じていただきました。ほかのみなさんもほとんど同じです。

──作品の最初の観客はキャストのみなさんになりますが、作品を観られた際の感想はいかがでしたか。

宇治茶:映像が先にできていたわけではなく、絵コンテをタイムラインに合わせて撮影したものに合わせて演じていただき、その演技に合わせて絵を動かしていきました。

──プレスコだったんですね。作品テンポも凄くよかったのでアフレコだと思っていました。

宇治茶:テンポも意識はしていたので、それを聞けて安心しました。

怖いもの見たさの好奇心を刺激したい

──今作で出てくる怪人? 妖怪?

宇治茶:僕もこれの呼び方を未だに自分で見つけられていないんです(笑)。

──ココは怪人でいきます。この作品の肝にもなる怪人の設定は何を切っ掛けに発想をされたのですか。

宇治茶:なんでしょう。『ジュラシック・パーク』や江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』や『孤島の鬼』、ほかには“探偵!ナイトスクープ”などの僕の好きな作品が混ざっているのかなと思います。

──確かに伺っていると各作品の要素がちりばめられていますね。

宇治茶:最初は楽しく遊んでいたものが罠だったという後半にかけてホラーへの転換は、違和感が出ないよう意識しました。

──物語の転換・キャラクターの変化もスムーズですんなり入ってきました。

宇治茶:ありがとうございます。普通であれば精神的な成長で表現するところですが、肉体の変化をプラスして見せたという形です。グリム童話的なものも根底にあって、ベタな設定にしようと思いました。おかあさんが病気というのも最近ではあまりない設定ですね。

──最近はこういったテイストの作品で、子供が主人公の作品もあまり多くないですね。全体の作品の空気感が『グーニーズ』や『スタンド・バイ・ミー』に近いものも感じました。

宇治茶:好きな作品なので、着想を得ている部分はあります。作品の空気感で言うと『学校の怪談』の影響もあります。

──確かに。

宇治茶:ああいう作品って楽しかったじゃないですか。それにただ面白いだけではなく、なんか嫌な感じがして。そういったものから得たものもあったと思うんです。

──なにかモヤッとしたものが残りますね。

宇治茶:『バトル・ロワイアル』など、年齢制限がかかった作品を見たいという怖いもの見たさの好奇心を刺激したいなとも思ったんです。

──わかります。なので劇場もそうなんですけど、公開後に深夜のTVでも流れたらいいなと思っています。

宇治茶:たまたま観てしまって「なんやったんやあれは!」みたいなのがいいですね。

──最後のシーンもナレーションのみで、希望と絶望どちらともとれる雰囲気で想像を掻き立てました。

宇治茶:最初はボビーのお母さんのセリフをいれていたのですが、想像できる余地が残るようにプランを変えました。

──あの終わり方、良かったです。

宇治茶:そう言ってもらえてホッとしました。

突っ込みながら観てもらっていい

──今作は80分の長編ですが、監督・脚本はもちろん絵もほぼおひとりでこなされているのですか。

宇治茶:ほぼ、僕の描いた絵になります。撮影も僕がしています。キャラクターも名刺サイズ位で小さいので、ちょっと斜めになるだけでピントも外れてしまうんです。意外にテクニックがいるんですよ。

──確かに大変ですね。終盤の爆発シーンでキャラクターの裏が見えてやっぱり紙に書いたものだったんだと再認識しました。

宇治茶:狙ったわけではないんですが、そこでハッと絵なんだと気づいてもらえると面白いかなと思い採用しました。

──そこはゲキメーションならではの面白さで良かったです。

宇治茶:昔の映画は結構カットが繋がっていないこともあるじゃないですか。そういうちょっとしたミスも残っていていんじゃないかなと。あまり狙いすぎても良くないですけど、突っ込みながら観てもらっていいと思っています。

──そこも作品のテイストにもなりますからね。私も笑いながら楽しませてもらいました。

宇治茶:良かったです。

──海外でも上映されたとのことですがお客さんの反応はいかがでしたか。

宇治茶:すごく熱心に観ていただけました。アルゼンチンでは最初から最後まで笑って観てくれて。逆にフランスのお客さんは凄くまじめに観てくれて、社会風刺も盛り込んでいるんじゃないかと聞かれました。その時は、そんなに重いテーマは入れていませんと答えました(笑)。 海外の方はストーリーもよく観てくれている感じです。色々なネタも仕込んでいるので、見つけていただけると嬉しいです。自分でも気づいていないうちにオマージュしているようなネタもあって、あとから気づくことも多いです。

──お話しを聞いてまた観たくなってしまいました。日本の方々にも刺さる作品になっています。

宇治茶:そうなればと思っています。予告などを観て気になっていただいた方、『燃える仏像人間』を気に入っていただいた方は、もちろん楽しんでいただける作品になっていると思います。もし前作が合わなかった方も今回は王道ストーリーになっているので楽しんでいただけると思います。僕自身も満足が行く出来になっているので是非劇場に観に来ていただきたいです。

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