経営不振の千代田化工 三菱商事と三菱UFJ銀行の支援で再生へ

 海外工事の巨額損失などで債務超過に陥った千代田化工建設(株)(TSR企業コード:350157642、横浜市、東証1部、以下千代田化工)は5月9日、都内で決算会見を開いた。投資家や記者などが出席した。
 会見で公表した2019年3月期(連結)の売上高は3,419億5,200万円(前期比33.1%減)、当期純利益は海外工事の損失が膨らみ2,149億4,800万円の赤字(前期は64億4,500万円の黒字)で、591億5,400万円の債務超過に転落した。
 山東理二・代表取締役社長は「多額の赤字計上を重く受け止めている。大きな損失を出したが、着実に再生を図っていく」と語った。
 また、長坂勝雄・代表取締役会長は6月の株主総会で退任し、新たに三菱商事出身の大河一司氏が会長に就任する人事案を発表。大株主の三菱商事が関連子会社や三菱UFJ銀行と千代田化工に約1,800億円の資金支援を行うことも明らかにした。
 受注工事のリスク管理の徹底と財務強化に向け、三菱商事が主導して経営再建に向けた取り組みが動き出す。

純資産は591億5,400万円の債務超過

 千代田化工の2019年3月期(連結)の売上高は3,419億5,200万円で、前期から3割超の大幅減収だった。米国のキャメロンLNG(液化天然ガス)プロジェクトでの想定外のコスト増に加え、現場作業員の離職率が高く工事が進捗せず、完工高が落ち込んだ。
 営業利益は1,997億9,500万円の赤字(前期123億3,000万円の赤字)、経常利益は1,929億9,800万円の赤字(同101億円の赤字)、当期純利益は2,149億4,800万円の赤字(同64億4,500万円の黒字)だった。海外工事の追加コストなどを再査定したことが響いた。
 特に、キャメロンLNG工事の作業員の生産性低下が大きな課題に浮上した。山東社長は、「第1系列の作業員は経験を積み、第2系列に移ると生産性があがる。そのためコストが少なくなると見積もっていた。だが、生産性が上がらず下方修正した。さらに経験を積んだ作業員の多くが辞めてしまい、生産性が低下した」と状況を説明した。

千代田化工の本社(横浜市)

千代田化工の本社(横浜市)

大株主支援で債務超過とGC注記は解消へ

 スポンサーは大株主の三菱商事に決まったが、山東社長は「(三菱商事以外の)多数のスポンサーが興味を示し、協議してきた。しかし、そうしたスポンサーの提案に折り合わなかった」と述べ、スポンサー選定が難航していた様子をうかがわせた。
 大株主の三菱商事に対して700億円の優先株割当を7月1日までに行うほか、同社子会社の三菱商事フィナンシャルサービスが900億円、三菱UFJ銀行が200億円を融資し、合計1,800億円を支援する。
 2019年3月期(連結)の営業キャッシュフローは379億4,100万円のマイナス。期末時点の現預金額は694億5,700万円で、前期から265億5,100万円減少した。今回の支援による700億円の増資でとりあえず債務超過は解消するが、自己資本比率は2%程度にとどまり過小資本から抜け出すには時間が必要だ。
 足元の受注は好調で、2019年3月期末の受注残高は海外向けが7,988億円(前期末4,903億円)、国内向けが2,175億円(同1,632億円)と計1兆円を超えている。だが、その一方で資金需要が高まり、キャッシュフローの不安を指摘する声は少なくない。
 こうした懸念について山東社長は、「徹底的に潜在リスクを洗い直し、将来のコストも含めて2019年3月期中に損失を計上した。(増資後も)自己資本比率は非常に低いが、1,800億円の資金で財務的な障害が生じることはないと思っている」と強調した。
 今回の支援で債務超過の解消や、当座の資金不足のリスクは回避される見通しとなり、GC注記の記載も解消する。

千代田化工建設 売上高・当期純利益の推移(3月期、連結)

2023年までに自己資本比率20%以上を計画

 千代田化工は多額の損失計上の対策として、リスク管理体制の強化を進めていくとした。その一環として受注前から受注後まで一元管理する戦略・リスク統合本部を立ち上げる。
 また、ガバナンス強化で独立社外取締役の割合を4割に高め、経営の監督と執行の分離を徹底する。総会後の取締役は10名で、千代田化工出身者は1名のみ。一方、執行体制は千代田化工が中心となる。
 今後は堅調なLNG市場だけでなく、洋上風力発電など地球環境分野を強化する。毎期3,000億円から6,000億円の受注を計画。さらに固定費の削減を進め、今後5年間で900億円の利益を積み上げ、自己資本比率20%以上を目指していく。

 2020年3月期(連結)の業績予想は、売上高3,900億円と増収、営業利益120億円、経常利益も120億円、当期純利益60億円のいずれも黒字転換とした。
 海外のプロジェクトの2019年3月時点の現況は、米国のフリーポートLNG工事進捗率は第1、2系列が約97%、第3系列が約91%。キャメロンLNGも約93%と進捗している。
 インドネシアのタングーLNGの工事進捗率は約55%で、質の高い下請先などに発注の振替や労働者の確保対策を実施しているという。
 懸念される工事の追加損失は、「(再び債務超過にならないよう)徹底的に洗い出し、コスト計上した」と、山東社長は下振れリスクを否定した。
 当面の経営危機はしのいだ格好だが、千代田化工が経営支援を受けるのは今回で3度目となる。過去の経営危機をどう教訓としたのか、甘い経営感覚を指摘する声もある。
 今回も三菱商事などの支援で資金面の不安は後退したが、ガバナンスやリスク管理の強化など千代田化工は重い課題を背負うことになった。また、海外でも人件費高騰が続き、今回の経営危機の直接的な要因となったリスクコントロールは難しさを増している。
リスク管理の徹底と売上確保を両立できるのか。千代田化工が再生できるか注目される。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年5月13日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

 TSR情報とは

© 株式会社東京商工リサーチ