宮本賢二さん&町田樹さんが映画「氷上の王、ジョン・カリー」ジャパンプレミアに登場!「ジョン・カリーは“ポラリス(北極星)”」

宮本賢二さん&町田樹さんが映画「氷上の王、ジョン・カリー」ジャパンプレミアに登場!「ジョン・カリーは“ポラリス(北極星)”」

アイススケートをメジャースポーツへと押し上げ、さらに芸術の領域にまで昇華させたフィギュアスケート・オリンピック金メダリスト、ジョン・カリーの半生を追うドキュメンタリー映画「氷上の王、ジョン・カリー」。5月31日の公開に先駆け、5月9日に都内でジャパンプレミアが開催されました。その上映後のスペシャルトークショーに、元アイスダンススケーターで数々のトップスケーターの振り付けを手掛ける宮本賢二さんと慶應義塾大学・法政大学非常勤講師の町田樹さんが登場! チケット即完売となった、プレミアムトークショーの模様をリポートします。

司会を務めたのは、アイスショーのMCなどでもおなじみの蒲田健さん。最初に映画の感想を求められた町田さんは、「まず、何といってもジョン・カリーというスケーターの身体の美しさです。彼は、フィギュアスケーターであると同時にバレエダンサーも志した人。デュアル(2重の)キャリアを歩んだものにしか体現できない“美”を、彼は氷の上で体現していた。それが、すごくこの映画から伝わってきたと思います」(町田さん)とコメント。そして、蒲田さんから「(町田さんのコメントを受け)ハードルが高くなりました」と振られた宮本さんは「スケート自体の美しさ、いろいろな状況の中、スケートへの情熱や努力で困難を乗り越えていった姿が印象的でした」(宮本さん)と感想を述べました。

本作に字幕監修・学術協力で参加した町田さん。そのきっかけとなったのが、本誌「KISS&CRY」の連載「プログラムという宇宙」の第1回「古典美と規範:ジョン・カリー」(KISS & CRYシリーズVol.17)とのことで、「やはり、芸術としてのフィギュアスケート作品として考えた時に、パッとジョン・カリーの名前がきらめくんです」(町田さん)と、記念すべき第1回にカリーを取り上げた理由を説明しました。

また、町田さんがジュニアグランプリで初優勝した大会の名が「ジョン・カリーメモリアル」、さらに町田さんの「エデンの東」「火の鳥」を振り付けをしたフィリップ・ミルズさんが、カリーのコーチであるカルロ・ファッシの弟子という縁も。蒲田さんから「いとこ関係くらい?」と言われた町田さんは、「そうですね…」と照れ笑い。「昨年の8月にプロジェクトが始まりました。半年以上、今日、この日を心待ちにしていました」「一つのワードでいかに多くを伝えるかを意識しました」(町田さん)と初の字幕監修の感想を語りました。

そんな町田さんの話を、ニコニコ顔で聞いていた宮本さん。「僕もジョン・カリーさんとのつながりを話したかったんですけど(笑)。…また町田くんがキレイにしゃべるはるなぁ、と思いながら聞いていました」(宮本さん)と会場の笑いを誘いました。

1976年インスブルック冬季オリンピックで金メダルを獲得したカリー。伝記によれば、伝説のプログラム「ドン・キホーテ」は、大会前の練習で1カ月ノーミスを続けていたとのこと。蒲田さんから「それは、どれくらいすごいこと?」と聞かれた町田さんは、天をあおぎしばし考えると「例えば、私が’13-’14シーズンにフリープログラムを1カ月間ノーミスでしろと言われたら、ロト6を当てるくらい難しい」とユニークに例え、「彼は『絶対的自信があった』と言っている。練習に裏打ちされた“結果と美”ということです」(町田さん)と説明しました。

また、町田さんが専門誌で連載中の「町田樹セレクション・スペシャルアワード」にかけて、「ジョン・カリーにアワードをおくるなら?」という質問には、「ポラリス(北極星)賞を贈りたいです」と回答。その理由について、「不動の起点として輝いている人。フィギュアスケーターの誰もが目標とすべき、指標だと思います。文学作品、芸術作品では偉大なる作品を“キャノン”と呼びますが、まさにジョン・カリーの生み出した作品はキャノンと言えるかと。目指すべきですし、学ぶべき作品です」(町田さん)と、絶賛しました。

続いて、「カリーの印象深いプログラムは?」という質問には、町田さんは「牧神の午後」と「After All」の2作を上げました。「『牧神の午後』は、今でもいろいろなスケーターに影響を与えている。私も引用させていただいた振りは何個もあります。『After All』はコンパルソリーから入り、それがどんどん踊りになっていく作品。その1作を見ただけで、フィギュアスケートで堪能できる身体の美のフォルムというものが全部入っているんじゃないか、というくらいの作品です」(町田さん)と熱弁。そして「動画投稿サイトに上がっていたりするので、良かったら見てください」(町田さん)と観客におすすめしました。

続いての質問は、お二人の振り付けの仕方ついて。町田さんは「最も意識したのは、音楽。優れた音楽をいかに視覚化するか、目に見える形に体現するかということ。それは単純に、“スケーターの身体から音楽が鳴っているかのように表現する”という方法もあれば、“音楽のコンセプトを抽出する”方法もある。いろんな音楽表現がありますが、とにかく私がモットーとしていたのは、音楽をビジュアライズ(視覚化)することです」と回答。宮本さんは、「現役選手でいえば、点数が高くなるように、キレイに見えるように、ジャンプが跳びやすくなるように、一つでも順位が上がるようにと考えながら振り付けしていました。例えば、髙橋大輔選手の『Luv Letter』では、彼がけがをして大変な状態の中で一生懸命頑張っている姿を見ていたので、それをみんなに見てもらいたいなと思って作りました。また、羽生結弦選手の『天と地のレクイエム』では、本当に大変な状況の中でみんな頑張っていかなければいけないという時に、一歩ずつ前へ、ポジティブに頑張っていこう、というメッセージを込めました」と話しました。

今回の作品の監督であるジェイムス・エルスキン監督は「ステージパフォーマンスというものは、人の心を強く震わすことができるけれども、たった一瞬で過ぎ去ってしまう。しかし、映像に残せばアーカイブ化され、感動をその先に残すことができる」と映画について話したそう。これを受けて町田さんは、「今活躍している競技者にジョン・カリーのことを聞いたら、私の推測ですが90%は知らないでしょう。今見てもカリーの演技から学ぶべきことはたくさんある。そういった過去の偉人、キャノンをちゃんと残していく。それは巡り巡って、今のフィギュアスケート界の普及・振興につながるはず。これまで、フィギュアスケートでは、完全なドキュメンタリー映像で構成されたドキュメンタリー映画はほとんど見られなかった。世界中に注目されている映画だと思います」(町田さん)とコメント。また、「スポーツなので、誰が何点獲得し、金メダルになったという記録は残っていきます。でも映像が残っていなかったとしたら、誰がその演技の本当の価値が分かるんだろう、ということなんです。いかに映像としてちゃんと記録して、それとともに言葉・情報を残していくかが一番大切なことだと私は考えています。そういうアーカイブが積み重なったところに、フィギュアスケートの文化が立ち上がってくると私は考えます」(町田さん)と話しました。

最後の質問は「令和」のフィギュアスケートについて。宮本さんは「4回転半、5回転がくると思います。そして、技術が上がった分、芸術ももっと上げていかなければならない。難しくなると思います」と予測。町田さんは「間違いなくAIが深く関与してきます。オリンピック競技になっている以上、優劣は客観的に決めなければいけない。しかし、AIが好む演技ばかりをしていても、機械的な演技なので、面白くない。私は令和のスターフィギュアスケーターの条件は、AIに支配されない演技ができることだと考えます」と展望しました。

続けて「私はAIを批判する者ではなく、例えば今、回転不足がどーのこーのとか」と熱がこもりますが、そこで蒲田さんから「どーのこーの?」とこれまでの町田さんと違う話し方にツッコミが。町田さんは「せっかく(宮本さんに)『キレイにしゃべってはる』と言われたのに…失礼いたしました」と苦笑い。そして、「回転不足なのか否かとか、スピンのレベルが取れているのかいないのか。すごく議論があって、その判定に社会でいろんなアクションが起こるという状態。テクニカルスコアの方にAIが入ればその問題は解決する。AIと人間の相互補完的な演技の評価システムを、構築していく時代なのかなと思います」(町田さん)とまとめました。

映画「氷上の王、ジョン・カリー」について、そしてフィギュアスケートについて、あふれる魅力が伝わる素晴らしいトークショーとなりました。本トークショーは、J SPORTSオンデマンド( https://jod.jsports.co.jp/p/winter/KENJI/190426-1730V)およびアップリンク・クラウド( https://www.uplink.co.jp/cloud/features/1998/)で配信されます。

宮本「こういうスケートの映画ができるというのは、本当にうれしいこと。そして、皆さんもぜひスケート場にお越しになって、スケートを体験してください。とっても楽しいので!」

町田「この映画はジョン・カリーの身体の美、作品の美を堪能できる映画です。それとともに、そのきらびやかな氷上の舞台の裏で、映画でご覧になったように、選手やスケーターはさまざまな困難を抱えて、それと戦って、氷の舞台に立っています。それは今も変わりません。いろいろな選手がジョン・カリーと同じような葛藤と向き合いながら、今も氷上で頑張って演技をしています。ですので、ぜひ、これからも氷上で活躍しているスケーター全員を温かい目で応援していただけたらうれしいです」

映画「氷上の王、ジョン・カリー」は5月31日より、新宿ピカデリー、東劇、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国で順次公開! 現代へと続くフィギュアスケートの歴史、ジョン・カリーが成した偉大な功績について学べるのはもちろん、ジョン・カリーの人生にも深く切り込む1作です。ぜひ、劇場でご覧ください!

<関連情報>


「氷上の王、ジョン・カリー」公式サイト
公式HP:https://www.uplink.co.jp/iceking/

<書籍情報>


KISS&CRY 氷上の美しき勇者たち 別冊 Dance!Dance!! Dance!!! 2017~燃ゆる秋、艶熟(アルチザン)の舞~(KISS&CRYシリーズVol.17)
https://zasshi.tv/products/detail/HBTNM170912_001-00-00-00-00-00

「KISS&CRY」とは?


「KISS&CRY」シリーズは、日本のフィギュアスケーターの皆さんをフィーチャーし、その「戦う」姿、「演じる」姿を合計50ページ超のグラビアでお届けしています。つま先から指先・その表情まで、彼らの魅力を存分に伝えます。また、関連番組テレビオンエアスケジュールも掲載。テレビの前で、そして現地で応援するフィギュアスケートファン必携のビジュアルブックです。
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