魔夜峰央さん、美意識と個性 「人と同じことはやらない」

魔夜峰央さん

 「人と同じことはやりたくない。私はあまのじゃくな人間なんです」。全身黒のいでたちに半月形の眼鏡の奥が、ぎらりと光る。「美しいものが好き」という繊細な感性が、手を組んだ指先からもにじみ出ている。

 今年、自身の漫画が原作となった映画「翔(と)んで埼玉」が大ヒット。取材やイベント出演なども重なり、“魔夜峰央フィーバー”が日本全国を駆け巡った。6月には代表作のギャグ漫画「パタリロ!」も映画化される。

 「忙しかったけれど、楽しかった。私はスピリチュアルな人間なので、2019年が転機となるのは数年前から分かっていましたけど」とにやり。ますます“魔夜峰央ワールド”のまか不思議さが漂いはじめる。さすがご本人。

 「パタリロ!」は、1978年に「花とゆめ」で連載が始まった少女漫画。昨年11月に100巻発行を成し遂げ、これまでにアニメや舞台にもなった人気作品だ。主人公のパタリロを演じるのは、舞台版と同じ加藤諒。「パタリロを演じられる地球人は彼しかいないと思います。諒くんがいたから実写化できた」と太鼓判を押す。

 幼い頃、手塚治虫の漫画に夢中になったが「漫画家になろうとは思っていなかった」と明かす。「大学が2年でつまらなくなり、学校を辞めたんです」。親からの自立を迫られる中、生きる手段として漫画の道に突き進んだ。

 「頭で考えても面白いものって出てこない。手を動かして描いていたらパタリロのキャラクターも出てきた。新しいものって、偶然が何度も重なってできるものだと思う」

 作品に登場するのは化粧をした“美男子”たち。「元祖BL(ボーイズ・ラブ)と言われることもあるけれど、同性愛を描こうと思った訳じゃないんです。少年漫画の女性ってほとんど同じキャラクターでしょ。それを変えたいと思った。私は女性を描くつもりで美男子を描いているんです」と語る。

 自分なりの哲学と美への追求が、誰も見たことがない独特なキャラクターたちを生み出した。「次の目標は200巻。100歳まで描きますよ」。個性を貫き、前人未到の道を行く。

 ◆まや・みねお 漫画家。1953年生まれ。新潟県出身。横浜市中区在住。73年に「デラックスマーガレット」(集英社)に掲載された「見知らぬ訪問者」で漫画家としてデビュー。78年に発表した「ラシャーヌ!」からギャグ漫画路線に転向し、同年「パタリロ!」の連載を「花とゆめ」(白泉社)で開始。同作は現在も「マンガPark」(同社)で連載中。2018年11月にはコミックス100巻を発行。大ヒットとなった映画「翔んで埼玉」の原作者。映画「劇場版『パタリロ!』」は6月28日から全国順次公開。

【記者の一言】

 「パタリロのキャラクターは、自分が生きたいように生きるという自由さが魅力。ものすごく強烈なギャグをやるけれど、本当に人を傷つけるようなことはやったりしない。それは私の芯がそうだからだと思うけど」と魔夜さん。パタリロが長年愛されてきた理由だろうと感じた。

 立ち居振る舞いが優雅な魔夜さんだが、山手(横浜市中区)でバレエ教室を開く妻の影響で44歳からバレエを始めたという。トーシューズも履きこなし、毎年、教室の発表会にも参加する。数年前には瀕死(ひんし)の白鳥も踊りきった。今年の発表会は9月15日に横浜市内で開催予定だそう。

 35年以上住む横浜の印象を聞いてみたら、「横浜と名乗っていいのは中区と西区だけですよ。『(大笑)』を付けておいてください」と、「翔んで埼玉」ならぬ「翔んで横浜」節をサービスしてくれた。

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