丹沢のクマ、「月の輪」で個体識別 神奈川県が新手法

立ち上がったクマの胸の月の輪がくっきりと映し出された固定カメラの画像(県提供)

 ツキノワグマの名前の元になった胸の白い斑紋(月の輪)の形やDNAを分析するなどして、丹沢にすむクマ1頭1頭の個体識別をしようと、神奈川県が新たな試みを始めている。県はこれまでも生息数をおおむね40頭と推計しているが、精度は高くない。今回の手法の導入によって推計の精度を高めるとともに、生息状況を把握してクマの保護や地域住民の安全確保にもつなげていきたい考えだ。

 月の輪は、「カメラトラップ」と呼ばれる手法で撮影する。

 2本の立ち木の間に高さ1.5メートルほどの横木を渡してクマの好物を置き、2メートルほど離れた場所に自動撮影できるカメラを設置。誘われたクマが好物を食べようと後ろ足で立ち上がり、前足を横木に掛ける「バンザイ」のような姿勢を取った際に、カメラの方に見せた月の輪を撮る。

 県は昨年8~9月、丹沢の奥山域2カ所で調査を実施し、静止画222枚、動画71本を撮影。そのうち静止画91枚、動画31本でクマが写った。静止画はぶれが大きくて個体を識別できるものは少なかったが、動画は半数で個体識別ができ、1カ所で2頭、もう1カ所で別の1頭の計3頭が写っていたことが分かった。

 一方、月の輪のパターンだけでなく、県は糞(ふん)から採取したDNAを分析。1頭1頭異なるDNAで個体識別する。これまでは好物でクマを誘引する「ヘアトラップ」法で得た体毛を使っており、現在の生息数推計は、2006~10年に実施したヘアトラップ法によるDNA分析などを基にはじき出している。

 これに対して、新手法は糞を見つけられれば分析できる手軽さのほか、林業関係者や市町村職員、NPOなどの協力を得られれば、より多くの採取につながることがメリットだ。また、クマがスギなどの皮を剥ぐ「クマハギ」の跡に残った歯茎の細胞などからも採取できるという。

 県は「近年、人里へのクマの出没数が増え、麓の市町村から『クマが増えているのではないか』という問い合わせもある。だが、クマの数を知ることは非常に困難」と説明。「クマの生息状況を知るために、今回取り組んだ新たな手法の開発を進めていきたい」としている。

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