【長谷川滋利の目】“松ヤニ疑惑”で物議、滑り止めは暗黙の了解? 「グレーな部分はたくさん」

オリックス、マリナーズ、エンゼルスで活躍した長谷川滋利氏【写真:本人提供】

菊池雄星は9日のヤンキース戦で2勝目を挙げたが、米メディアからは“松ヤニ疑惑”が…

 マリナーズの菊池雄星投手は8日(日本時間9日)に行われたヤンキース戦で8回途中1失点と好投し、今季2勝目を挙げた。移籍後、一番ともいえる好投だったが、米メディアなどは菊池が帽子のツバの裏に“滑り止め”を付けていたのでは?と伝え、この“松ヤニ疑惑”が物議を醸した。

 メジャーではこれまで松ヤニなど滑り止めを使用し、出場停止処分を受けた選手も多々存在する。オリックス、マリナーズ、エンゼルスで日米通算102勝をマークした長谷川滋利氏が自身のメジャー時代を振り返り、“滑り止め”、メジャー球の見解を語った。

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 菊池はヤンキース打線をほぼ完璧に抑える好投を見せました。向こうのメディアでは映像など色々と“証拠”を出して騒いでいましたが、選手、首脳陣らチームはどうだったでしょうか? コメントを見る限りでは菊池を追求するようなことはなかったはずです。

 松ヤニを使っていたか、使ってなかったかの問題は置いておいて、私がメジャーで投げていた時の話を前提にここでは説明したいと思います。当時から、“暗黙の了解”で使っているとされている投手は多かった。皆さんもご存知の通りメジャーのボールは滑りやすいですから。

ポマード、日焼け止めなど“グレー”な部分も多い

 松ヤニ以外にも髪の毛にポマードを多めに付けて帽子を脱いだ際に髪を触ったり、グラブの中に(滑り止めを)付けたり、その他には試合前に日焼け止めを塗って汗を拭く際にボールを触ったり……。ルールの中で絶対にダメな部分もありますが、試合前の保湿(日焼け止め)などは問題になりませんから。グレーな部分はたくさんあるということです。

 当時は泥がついて汚いままの帽子を被っている選手もいたし、トイレに行って手を絶対に洗わない選手もいました。相手投手が何か使っていると分かっていても、それをメディアに通じては言えない。なぜか? それは自分のチームの投手もやっている可能性があるからです。相手に言っても、自分のチームはどうなんだってなりますよね。

 私も当時はよく向こうのメディアに疑いをかけられていました。動くボールで打者を抑えるタイプだったので「何かあるんだろう? 何か使っているだろ?」ってね。

 でも逆に考えればそれだけ“嫌なやっかいな投手”ということです。新戦力が好投するようになれば色々と“追求”されるのは仕方がないことです。私の場合は何を聞かれても「どうでしょう、あるかもしれないね」と含みを持たせてしっかりとした答えを明かすことはしませんでした。そうすれば嫌でも相手は色々と考えるし、自分にもプラスに働きますから。

 サイ・ヤング賞を4度獲得したグレッグ・マダックスだって何度もメディアから疑惑をかけられていた。何もないのに相手に何かを思わせる。それだけで、相手は嫌になりますよね。疑惑を武器に変えてルール内で一番いい方法を考えればいいと思いますね。

 実際に私も練習の時に松ヤニを試したことはありましたよ。グリップがしっかりしてスピードは上がるような印象でしたが、手にボールがくっつきすぎてコントロールが武器の自分には不向きでしたが。ルールを破る投球は絶対にダメですが、いつの時代もこのような疑惑はかけられるものです。メジャーにも“暗黙の了解”でプレーしているところがあるということです。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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