高橋悠也(脚本家) 『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』 小池健監督の描く初めての"峰不二子"

不二子の母性の部分を描くことには賛否両論ありました

──TVシリーズで『LUPIN the Third -峰不二子という女-』があったので、三作目が『峰不二子の嘘』というのが意外でした。

高橋:一般の方の感想でも同じ声を聞いています。TVシリーズも小池(健)監督はキャラクターデザインで入られていましたけど、今作は監督もやられているので、小池監督の初めての峰不二子という位置付けの作品になります。

──デザインは同じでも、監督・脚本が違うとまた新しい作品ですね。今回の劇場版に入られた時期はいつ頃ですか。

高橋:最初のアイデアを書いたのは、2016年です。TV第4シリーズのあとですね。このシリーズは、小池監督・石井(克人)さんともに原作やTV第1シリーズに近いテイストにしようということで始まった企画なので、アダルトでハードなルパンを目指して取り組んでいます。

──ツイートで「いまだかつてない不二子」とおっしゃられてましたが。

高橋:つかみになればと思いツイートしました(笑)。

──実際、今までに見たことがない不二子で新鮮でした。

高橋:不二子の母性の部分を扱うことには賛否両論ありました。そもそも不二子に母性があるのかないのかも含めて。あまり前面に出てしまうと不二子じゃないよねと議論をしながら進めました。そこはタイトルにかかってくる部分にもなっています。タイトルは脚本が書きあがった後に決まったのですが、それも面白いなと思いました。

──タイトルが最後だったんですね。

高橋:タイトルであえて“嘘”というのはどの部分なのか。不二子が嘘をつくのは当たり前じゃないですか。シナリオの中でも嘘をついているシーンは沢山あって、それが嘘だとわかるシーンもあるんですけど。嘘なのか本音なのかわからないところもあるもので。

──そうですね。私個人の感想としてはジーンに対しての母性は本心だったんじゃないかと感じています。

高橋:なるほど。ジーンは子供で色気がわからないので、不二子の技が通用しない。そこが弱点ですね。なので本人でも予期しなかった母性の部分が掻き立てられたのかもしれないです。今回はそこがどういう化学反応を起こすんだろうというのは書いていて楽しかったところです。

──それ以外にもビンカムとのアクションシーンも今までの不二子ではなかったことなので新鮮でした。

高橋:どう戦わせるかは悩んだところです。不二子にアクションが似合うのかという意見もありましたが、今回はガチンコで戦わせようということになりました。

──不二子があそこまでボロボロになって戦うのはなかったと思います。

高橋:今までの作品を観ていただいたお客さんの期待には応えたいなという思いがあります。小池監督が素晴らしいアクションをつくってもらえたおかげで今回も見ごたえのあるシーンになっています。

──すごかったです。物語ではやはり“ビンカム”と “ジーン”がキーとなりますね。この二人にモデルはいるのですか。

高橋:明確なモデルはいないです。ただ、普通の女好きの男ではいつもの展開になってしまうので、とにかく色気・話術が通用しないキャラクターにすることを意識しました。この二人はある面では表裏一体でもあるので、不二子に対して母性と女性どちらを感じるかで描きわけの差を出しました。

見る人によって見え方が変わるように

──ビンカムの戦い方も不二子の敵らしい技の使い手で新鮮でした。

高橋:強い敵を表現するにあたって、アクションで凄みを出すだけでは限界があるので、絶対勝てないと感じる不可能性を匂わせる必要があるとは感じています。そこは今までも表現してきたつもりですけど、今回は人をだます不二子ということで似ているようで違う技で立ちふさがるという部分は意識しました。

──今までがフィジカルな強さを前面に出していましたから、そのコントラストもあって面白かったです。ちなみに高橋さんの考える峰不二子の魅力・キャラクターはどんなものですか。

高橋:そうですね。いわゆる女スパイや、女泥棒だったり、女性的な美の完璧さ、彼女の魅力はいくつもあると思いますが、僕がこうであってほしいなと思っているのは本心が一切わからないずっと誰にも理解されない何かをもつ女性であってほしいと思っています。どちらかというと願望に近いかもしれないですね。

──実際に不二子はそういうキャラクターですよ。

高橋:なので、心情など明確に書くのは不正解じゃないかと思っていて、書きすぎないように気を付けています。それはあくまで僕が考えた不二子なので、ある意味で我を入れすぎないようにして見る人によって見え方が変わるようにしようと意識しています。

──見る人によって変わる、想像できるようにされているということで、女性から見ても魅力的な不二子になっていると思います。

高橋:だといいですね。

常に自分との闘い

──女性ならではの強さも描かれて、それでいて弱さも描かれてる。そこに人間臭さもあって素晴らしいです。脚本はどのようにして進められたのですか。

高橋:最初、石井さんに敵であるビンカムのビジュアルイメージを描いてもらいました。今回は不気味な細身のキャラクターと不二子が戦うというイメージからスタートしました。それを元にどうやって戦うんだろう、どういう背景があるキャラクターなんだろうと練っていき脚本を進めていきました。小池監督のルパンは毎回そうやって進めています。

──ファンにもすごい好評で伝わっていますよ。『峰不二子の嘘』では小池監督シリーズのファンには嬉しいキャラクターも絡んできて。次回作への期待がもう膨らんでいます。

高橋:ありがとうございます。僕も書いていて本当に楽しいです。ほかのシリーズもルパンは魅力的なキャラが多いですから、しっかり作りこんだ敵じゃないと相手にならないんです。毎回敵キャラを考えるのに苦労します(笑)。

──そうですよね。やはりルパンを書くのは難しいですか。

高橋:回を重ねるごとに難しくなっているように感じます。常に自分との闘いです。

──逆にルパンを書くことの面白さはなんですか。

高橋:本当に言葉通りの意味で物語の可能性が無限にあることです。普通はジャンルを限定してしまうんですけど、それがなくて。こんな作品はなかなかないですね。そこが苦しい部分でもあります(笑)。

──だからこそ、生まれてから半世紀以上たちますが年代を超えて愛されているんですね。

高橋:そうですね。古臭さがないというのも凄いですよね。

──脚本家として身近で見ている小池監督ルパンの魅力はなんですか。

高橋:画面から痛みもビシビシと伝わることですね。単純にグロい表現をしているというわけじゃなく、音や動き、絵の表現の全てにリアリティーを感じて、そこが大きく違うなと思います。

──確かに血や汗・土の匂いがするように感じます。断面も普通に見えるんですけど、グロいだけじゃなく絵としてもきれいなんですよね。

高橋:銃を組み立てるシーンなども演技に細かいこだわり・生っぽさがでて、そういう肌感覚がアニメーションでありながらリアルさに繋がっていますよね。今回の不二子もそこは変わらず、肌や気持ちがヒリヒリして凄かったです。

──そこは脚本の素晴しさもあってです。観客としてはいい意味でずっと予想を裏切られています。

高橋:ありがとうございます。おかげさまで『次元大介の墓標』から好評でこの方向が間違っていなかったんだと感じています。ただ、前作を超えなくちゃいけないんだと、ルパン三世って怖いなとも思っています(笑)。

──裏切られたといえば、決着のつき方は意外でした。

高橋:僕なんかが勝手に感じる母性、母としての女性の強さがあそこにあります。シナリオ開発の段階でも「戦う必要はあるのか」と突っ込まれました。ただ今回はそこは曲げる訳にはいかなかったんです。

──素晴らしかったです。ファンのみなさんも公開を心待ちにしています。

高橋:ありがとうございます。キャラクターデザインが同じ小池監督ということで『峰不二子という女』とビジュアルは似ていますが、今回のルパンはまた全く違った新しいものになっているのでそれを第一に楽しんでいただきたいです。タイトルの『峰不二子の嘘』、当たり前のように嘘をつく彼女の話になぜこのタイトルを持ってきたのかという意味を是非、劇場で感じて欲しいです。

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