【まちを継ぐ 横浜の郊外から(1)】郊外再生の先駆けに

十日市場ヒルタウンの21街区の広場で行われた地域交流イベント=横浜市緑区

 戦後の人口急増期、39ヘクタールの丘陵地を切り開き開発された大規模団地「十日市場ヒルタウン」(横浜市緑区)には、2883戸の公的住宅(市営2334、UR都市機構549戸)が立ち並ぶ。

 中央に位置するセンター地区(20、21街区)では現在、「持続可能な住宅地」をうたうプロジェクトが進む。横浜市と東急電鉄、東急不動産、NTT都市開発の4者が、既存の住宅地を対象に連携して取り組むまちづくりである。

 「郊外住宅地が直面する課題解決のモデルとなる事業」。東急電鉄開発事業部の関川陽介さんが指し示す20街区では、多世代向け分譲住宅(311戸)や交流施設の建設工事が急ピッチで進む。世代を超えた交流を掲げる新たなコミュニティーが今秋、誕生する。

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 「とにかく若いエネルギーにあふれていた」。十日市場団地連合自治会会長の宮本増穂さん(77)は、日本が高度経済成長期に入った時代に重なる十日市場ヒルタウン草創期を振り返る。

 大手鉄鋼メーカーに勤務していた宮本さんは1964年、同住宅に転居。ブロック造り中層住宅の2Kの間取りは「当時、最新の住宅設備に囲まれ、住み心地が非常に良かった」。玄関脇のダストシュート(ごみ捨て装置)が印象に残る。

 入居者の大半は働き盛りの世代。住民間の交流も盛んで、各街区を中心に42の自治会が組織された。「自治会対抗のソフトボール大会は3日がかりで行われたほど」。宮本さんは自治会の体育指導員として先頭に立ってスポーツ大会や交流イベントを切り盛りした。

 「活発な地域交流はここの伝統」。自治会の担い手の高齢化が進む中、夏祭りや運動会など年間行事は今も引き継がれている。

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 十日市場住宅として59年に最初の入居が行われてから60年、十日市場ヒルタウンの高齢化率は40.5%(2018年3月)と、緑区全体の23.3%(同)を大きく上回る。

 高齢化の進行、単身者、高齢者夫婦の増加、地域コミュニティー衰退への懸念-。「若い世代を呼び込み、街の衰退を防ぐための仕組みが必要になった」。同市建築局の竹下幸紀住宅再生課長は話す。市は所有する20、21街区を対象に民間活力の導入を決定。2014年、企画提案型で事業者を募った。

 公募に当たり市は「市有地を活用した住民、企業、行政のまちづくりのモデルケースとして、その成果を横浜市内に展開していく」と、産公民連携による郊外再生の先駆けにプロジェクトを位置付けた。

 戦後、大都市近郊の典型的なベッドタウンとして形づくられた横浜の郊外住宅地。少子高齢、人口減少社会の到来を見据え、各地域で広がり始めているまちを次代へ継ぐ取り組みを報告する。

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