元日本ハムエース西崎氏が期待する、吉田輝星と柿木蓮の前向きなライバル関係

日本ハム・柿木蓮(左)と吉田輝星【写真:荒川祐史】

「『アイツには負けない』って思いが、2人にはあるんじゃないかと思います」

 プロ野球は開幕から1か月が過ぎ、期待通りの活躍をしている選手、思うようなパフォーマンスが披露できない選手と様々だ。各チームで早くも戦力の入れ替えが行われる中、2軍では1軍昇格を目指す若手選手が自己研鑽の毎日を送っている。

 日本ハムのファーム施設がある千葉県鎌ケ谷では、2018年ドラフト1位の吉田輝星投手、同5位の柿木蓮投手がイースタン・リーグのマウンドに上がりながら、初めて味わう野球一色の日々に没頭している。若手選手の育成には定評のある日本ハムだが、それ以上に「同期ライバル」の刺激による高め合いを期待するのが、かつて日本ハムのエースとして活躍した西崎幸広氏だ。

 ルーキーイヤーの1987年に15勝7敗、防御率2.89という圧倒的な成績を収めながら、登板試合数、投球回、奪三振数、防御率でわずかに上回った近鉄・阿波野秀幸(現中日1軍投手コーチ)が新人王を獲得し、西崎氏は史上初のパ・リーグ会長特別賞を受賞した。西崎氏はこの年から3年連続で15勝以上を記録するなど、長く日本ハムのエースとしてチームを牽引。その原動力となったのは「チーム内の投手には誰にも負けたくない」という思いだったという。

 以前「ライバルは他球団ではなく、条件が同じチーム内に持った方がいい」と話していた元右腕だが、今季の日本ハムに誕生した「吉田と柿木」という、共に昨夏の甲子園を沸かせた同期入団の2人は「いいライバルになると思いますよ」と見る。

「同じ高卒ピッチャーで、柿木君は甲子園で優勝、吉田君は準優勝でしょ。でも、ドラフトでは吉田君が1位で、柿木君が5位になっている。そこら辺の微妙な思い、『アイツには負けない』って思いが、2人にはあるんじゃないかと思います。どっちが先に1軍に上がるんだ? どっちが先に勝つんだ? アイツがやったら俺もやったるって、互いに引き上げ合える形になるんじゃないかと思います」

かつて日本ハムでエースを務めた西崎幸広氏【写真:編集部】

吉田は「キレのある投手」、柿木は「技巧派になるのでは」

 両者が持つ投手としての才能は、誰もが認めるところ。その2人が互いに切磋琢磨して、能力を十二分に発揮すれば、チームにとってこれ以上のことはない。

「いい効果が生まれますよ。みんなスタートは横一線と言いますが、平等であり不平等なんですよね。ドラフト1位で入ってきた方が大事にされるし、やっぱりわずかにリードしている。下位指名とは変わってきますから、そこを本人たちがどう捉えるか。2軍でどうに差を縮め、差をつけるかですよね」

 吉田と柿木は共に時速150キロを超えるストレートを持つが、西崎氏は2人がタイプの違う投手になるのではないかと見ている。

「吉田君は基本的に、ストレートがスピードガン以上の伸びを持っていると思うんです。キレのあるピッチャーですよね。柿木君はいいストレートも持っているけど、変化球も素晴らしい。そこを上手く使って打ち取る技巧派になるんじゃないかと。性格的にはストレートで押したいタイプかもしれませんが(笑)。いずれにせよ、互いに負けず嫌いな面が出て、最高のライバルになると思いますよ」

 5月19日現在、吉田は2軍で7試合(21回)で投げ、0勝2敗、防御率2.57、柿木は9試合(16.2回)に投げて2勝0敗、防御率8.64となっている。どちらが先に1軍の舞台に上がるのか。

「本人たちも球団も焦ってはいないと思います。夏場くらいを目安にできればいいんじゃないかな。今年じゃなくて来年でもいいわけですから。1年間をかけてプロのスピードに慣れ、体を作ればいい。怪我さえしなければ、球団のエースになってくると思うんですよ。ダブルエースとして並び立つことも、球団は頭に入っているでしょう。その可能性も十分にありますよ」

 鎌ケ谷で切磋琢磨を続ける2人のライバルから目が離せなさそうだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

© 株式会社Creative2