フィンランド再訪で改めてわかった「図書館のすばらしさ」と「影を落とす移民問題」

フィンランド教育というと、日本よりも進んでいていいところばかり、といったステレオタイプの記事も多く見受けられます。しかし、実際フィンランドに行ってみると、教育にも大きく移民問題が影を落としていました。

これまでの【フィンランド教育はなぜ子どもを幸せにするのか】はこちら

学び、集うことのできる場「図書館」

先日、2年ぶりにフィンランドへ行きました。そこで見えてきた、フィンランドの教育の最近の様子をお届けします。

今回フィンランドのヘルシンキを再訪するにあたり、楽しみにしていたことのひとつが、2018年にオープンした、ヘルシンキ中央図書館「Oodiを訪れること。フィンランドの図書館は現地に住んでいたころからよく使っていて、どの図書館でも心地のよさや本への興味を引き出す仕掛けに溢れていると感じていました。私が運営する学童保育の内装やコンセプトを設計する上でも、参考にしています。

そんなすばらしい図書館が多数あるフィンランドで、多くの人がオープン時から足を運んでいる図書館ということですから、期待は高まります。

オープンな雰囲気の図書館。蔵書は少なく(ローカルの図書館でも充分本を借りられるので、こちらの中央図書館は“集う場所”に振り切っている様子)人々が時間を過ごす場所になっていた
ベビーカー置き場も館内に。赤ちゃん、幼児もたくさん。
こちらの席は人気でいつも満席。

日本の図書館の多くは一律で「飲食禁止」「私語禁止」ですが、フィンランドの図書館は、うまくエリア分けされています。静かにするスペース、カフェスペース、ミーティングスペース、そしてミシンや3Dプリンタを借りてものづくりをするスペース。場所にゆとりがあるからこそ叶うことでもありますが、「アクティブな学び」や「集うことの効果性」を視野に入れたフィンランドの図書館の空間活用から、私たちが学べることは多いのではないでしょうか。

トイレの手洗い場。さまざまな高さの蛇口があることで、いろいろな身長の人が使いやすくなる。
カフェスペース。カフェスペースがあることで、1日中図書館で過ごせる。
ミシンの貸し出しスペース
プログラムをして木をカッティングするマシンも貸し出し可能。

チャレンジしているフィンランドの学校現場

もうひとつ、私には訪れたい場所がありました。フィンランドは、2017年から学校現場でのカリキュラムを大幅に改定し、

  • より子どもが積極的に参加できるアクティビティ
  • 先生方のクリエイティビティ

を推進しようとしていました。 もよく考えられており本質的と感じていました。

なので今回、再度小学校を訪問し、2年前よりもいきいきとした子どもたちや仕事を楽しんでいる先生方と会えるかと期待をしていました。

ところが、私が訪問した小学校では、2年前よりも雰囲気が荒れていました。子どもたちの授業中の質問数が減り、授業は先生が一方的に進めることが多く、トイレは以前より汚れていました

背景に大きく影響しているのが、“フィンランドが多文化社会になっていること”と、“政府や社会からの学校や先生、子どもへの過度な期待”にあると、私は分析しています。

久しぶりのフィンランドの学校。いろいろと変化はあるものの、子どもの個性を大切にするという部分は変わっておらず、あいかわらず落ち着く空間。
休み時間は森で遊べる(森に隣接している)のもフィンランドの小学校のいいところ

まずは、中東からの移民流入のピークを過ぎたとはいえ、 。子どもの両親とフィンランド語や英語でコミュニケーションが取れない先生や子どもは、

  • 先生が授業で話す言葉がわからない
  • 背景にあるフィンランドに根づく価値観(人々の間の平等性など)が理解できない
  • 移民としてフィンランドに来た両親が社会に溶け込めていない

など多くの問題があり、それに対する対応が、フィンランドの学校や先生方のキャパを超えてしまっているのだと感じました。2-3年前に誇らしげに「私のクラスは多民族だけど、子どもたちは仲よくうまくいっているの!」と話してくれた先生が、「子どもたちや両親(保護者)と理解しあうことが難しい……」と嘆いていたことが印象的です。

さらに、2017年の夏から現場で施行された新しいカリキュラムについてはこのような意見が出ていました。

  • 新しいカリキュラムはフィンランドの教育のあるべき姿を描いているし内容には賛同するけれど、すべての授業をクリエイティブに計画するほどの時間的余裕が先生方にはない
  • 子どもたちが自律的にテーマを決めて、調べてグループワークをすることはとても大切。でも、私のクラスの子どもたちにそんな課題を与えたらすぐに遊びや喧嘩をはじめてしまう。フィンランドの小学校の先生や子どものリアリティが反映されていない

と、National Board of Education(フィンランドの文科省)に対して批判的でした。

手放しに「フィンランド教育がすばらしい」とならないこと

今回のフィンランドの小学校訪問は、期待が外れた部分もありましたが、それ以上に収穫が大きかったと感じています。

日本の多くの人が「フィンランドの教育はすばらしい」というイメージをもっていると思いますが、そのすばらしさが具体的に何であり、どのようにして創造され、受け継がれてきたのか、時代や社会による変化をどのように乗越えようとしているのか——それらを理解してはじめて、本当のすばらしさが腹に落ちるはずです。

そして今、フィンランドが体験しているチャレンジングな状況が、後々日本でのさまざまな教育や保育の現場でも活かせるのです。

次回は、フィンランドの先生方がどのように現場を克服しようとしているのか、社会の中での取り組みを交えた内容を共有したいと考えています。

※ここで共有した内容は私個人が数日間で小学校を訪問しての所感ですので、フィンランドの小学校現場全体について当てはまることではないことをご承知おきください。

フィンランドの学校にあるアート作品にはいつも気づきをもらえる
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フィンランド教育はなぜ子どもを幸せにするのか - バレッド(VALED PRESS)

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