戦後の横浜に実在した白塗りの街娼(がいしょう)をモデルに、戦争に翻弄(ほんろう)された女性の生涯を描く舞台「横浜ローザ」(杉山義法作、西川信廣演出)が31日から、横浜市中区新港の横浜赤レンガ倉庫1号館で上演される。横浜ゆかりの俳優、五大路子さんがライフワークとして20年以上演じ、戦争の現実に向き合い続けている。
公演は、74年前に横浜大空襲のあった29日に合わせた。主人公ローザのモデルは、占領下の横浜で米軍将校らを相手に体を売り始め、伊勢佐木町や馬車道などの繁華街に立った「メリーさん」。五大さんは1991年に本人と出会い、舞台化の許しを得たという。2015年にはかつての敵国、米国での公演も実現した。
五大さんが表現するのは、一人一人の人生を狂わせる戦争の実相だ。メリーさんだけでなく同時代の市井の人々を意識し、その悲嘆や怒りを代弁する。そして、困難に身を置きながらも、戦後の生き方を自ら選び、もがいた女性の強さをも演じようとしている。
卒寿を超えた五大さんの母は、近代的な現在の横浜を見て「あの時、桜木町は焼けただれていた」と事ごとに話すという。「当時を知る人にとって戦争は“地続き”なんです」。そう痛感する五大さんは近年、学生との対話を重ね、本作を題材にして記憶の継承にも取り組んでいる。
今回の演出では、これまで多用した映像や音楽を減らす。たった独りで舞台に立ち、ある人物を演じるという原点に立ち返ることで「あの時代」を追体験したい、との思いからだ。
開演は31日は午後6時、6月1~4日は同2時。前売り料金は5千円、学生3千円。問い合わせは、横浜夢座事務局電話045(661)0623。