【管理栄養士から学ぶ山ごはん#2】”バテない”ためのアレンジレシピ 登山には欠かせない”山ご飯”。多くの体力を消耗する登山では、いかに必要な栄養を効率よく補給するのかが重要になってきます。簡単なのに美味しい、さらに栄養価も高い山ご飯。登山中に起こる様々な体の悩みに寄り添った山ご飯レシピを管理栄養士、兼アウトドア料理研究家のshihoさんに教えてもらう連載企画!第二回目の今回は、バテやすい体をサポートするご飯レシピを紹介します

『バテない』ために必要な栄養素とは…?

いつも通りの山ごはんでも当然美味しいですが、いつもの食事に”栄養の知識”をプラスした、栄養満点の山ごはん。そんなワンランク上の山ごはんで内側からも体を応援してあげられたら、皆さんのこれからの登山ライフがより豊かなものになるかもしれません。
そこで、管理栄養士でアウトドア料理研究家のshihoこと芳須思帆が、栄養学の知識を生かしながら、登山のお悩み別に山ごはんレシピを紹介する栄養レシピシリーズ。今回のテーマは『バテない』ためにおすすめの栄養レシピです。

バテてしまう原因とは?

登山で疲労困憊に陥ってしまう原因としては、栄養不足・脱水・筋疲労・寝不足・悪天候・道迷いなど、様々な原因が挙げられます。
その中でも注意したいのが栄養不足。登山では想像以上のカロリーを消費するため、しっかりとした食事をとらずに歩き続ける事で血糖が低下し「シャリバテ(ハンガーノック)」という症状に陥る事も。
全身に力が入らなくなってふらついたり、最悪の場合動けなくなってしまいます。それらのトラブルが起こる前に、必要な栄養を摂取することが必要です。

バテないために摂取したい3つの栄養素

「シャリバテ」のような症状がおこったときは、おにぎりやあんぱんなどの炭水化物(糖質)中心のものを食べてエネルギーを補給する事などが推奨されますが、そんな状態になってしまう前に必要な栄養をしっかり摂取したいものですね。

バテないために摂取して欲しい、私が推奨する3つの栄養素をまずは紹介します。

①:エネルギー作りに欠かせない「炭水化物(糖質)」

ご飯やパン・麺類・砂糖に多く含まれている炭水化物(糖質)は、エネルギーを作りだすためには欠かせない栄養素。
1g当たり4kcalのエネルギーを持ち、脂質などに比べて分解・吸収が速く、体内で効率よく供給することが出来るため、即効性のあるエネルギー源となります。

②:炭水化物を分解してエネルギーに変える「ビタミンB1」

豚肉や大豆、ウナギなどに多く含まれるビタミンB1は、炭水化物(糖質)をしっかりと分解して十分なエネルギーを作り、体内に乳酸などの疲労物質がたまるのを防ぐ働きをしてくれます。

このビタミンB1が不足してしまうと、いくら炭水化物(糖質)をしっかり摂取してもエネルギーに変えることができず、疲労物質がたまることで疲れやすい状態に陥ってしまうため、先ほど紹介した炭水化物(糖質)と共に、しっかり摂取していただきたい栄養素の一つです。

③:エネルギーを長持ちさせる「脂質」

油脂や乳製品、脂肪の多い肉やナッツなどに多く含まれる脂質は、体にとっては重要なエネルギー源。脂質が多くなるとカロリーも高くなる傾向となり、1g当たり約9kcalの高カロリーを持つ栄養素です。登山でも欠かすことのできない栄養素ですが、実は「摂取すればいい」とうわけではなく、体内では炭水化物(糖質)と一緒でなければエネルギーを生み出すことができません。

余った分は体脂肪として蓄積されるため、嫌煙されがちな栄養素ではありますが、登山のような運動をする場合、効率よくエネルギーを摂取することが出来るので、賢く取り入れたい栄養素です。

《糖質×脂質》きのこのミルクリゾット

時間や強度にもよりますが、登山のような運動を行うと自律神経の交感神経が優位になるため、消化・吸収が抑制され、効率よく行われないことがあります。そんな状態でも、消化に良くさらっと食べられる、かつ濃厚で満足感抜群のリゾットをご紹介します!

材料(2人分)
米 1合
ドライトマト 1㎝角にカット大さじ1
干し椎茸スライス 10枚

【A】
水 500ml
固形コンソメ 1個
スキムミルク 大さじ4
オレガノ大さじ1/2

オリーブ油 大さじ2
粉チーズ 大さじ4
フライドオニオン 大さじ2
黒こしょう 適量

《自宅での事前準備》
材料はすべて軽量しながらジップ付きポリ袋に入れておくと、調理がしやすいです。

《調理前の準備》
分量の水を少し取り、ドライトマトと干し椎茸スライスを戻しておく。(10分位)

作り方

①フライパンを熱してオリーブオイルを加えたら、米も入れ全体的に透き通ってくるまで炒める。
②ドライトマト・干し椎茸を戻し汁と共に入れ、Aを加えて軽く混ぜる。

③沸騰したら火を弱めて、蓋をして15分程度煮る。(途中焦げ付きそうなら、数回かき混ぜると良いですよ)

④少し芯が残る状態で火を止め、粉チーズを混ぜたら器に盛りつけましょう。フライドオニオンを飾り、黒こしょうを振ったら完成!

水を除いた重量はたったの280g!
牛乳を持って行かなくても、スキムミルクで代用可能。軽量化&ゴミも減らせます。
旨味やコクのある食材を使用しているので、物足りなさも感じずに最後まで美味しく食べられますよ!

④で少し水分を残した状態で仕上げた方が、出来上がりがもったりとせず、最後まで美味しく食べられます。
水分がなくなりそうな場合は、途中で適宜足してください。

《糖質×ビタミンB1》甘酒サイダー

おすすめの食材は「甘酒」です。米麹から作られる甘酒は「飲む点滴」とも言われており、ビタミンB1等のビタミン類や糖質の中でも素早く体内に吸収されるブドウ糖など豊富な栄養素が含まれています。

そのまま飲んでも美味しい甘酒。今回は甘酒を少しアレンジし、汗をたくさんかくこれからの季節にもピッタリの、爽やかなフルーツ入り甘酒サイダーを紹介します。

材料(1人分)
甘酒 1パック
炭酸水 50ml
冷凍フルーツ お好みのものを好きな量

作り方

レシピはとっても簡単!
コップなどに甘酒・炭酸水を注ぎ、冷凍フルーツも加えて混ぜれば完成です。

甘酒は、できれば米麹が原料のものを選んでください。
私のお勧めフルーツは、「ぶどう」と「パイナップル」。爽やかな酸味と甘みが疲れた体にぴったりです。
冷凍フルーツは最近コンビニでも豊富に取り扱っていますので、お好みのものをお試しください!

《全てを摂取できる黄金レシピ》豚バラの梅しそ丼

最後に紹介するレシピは、バテ予防に私がおすすめする栄養素3つ全て満たす、豚バラの梅しそ丼。脂質&炭水化物さらにビタミンB1を一度に摂取できるアレンジレシピなんです。

さらに、合わせ調味料に使うにんにくにはビタミンB1の吸収を高めてくれるアリシンが豊富。梅干しには疲労回復効果が期待できるクエン酸が多く含まれます。バテ対策にぴったりのレシピ、これはもう作ってみるしかないですよね?!

材料(2人分)
豚バラ肉ブロック 300g
しめじ 1袋
大葉 4枚
白ごま 小さじ1

(合わせ調味料)
梅干し 2個
ポン酢 大さじ2
はちみつ 小さじ2
おろしにんにく 小さじ1

塩・こしょう 少々
酒 小さじ2
ご飯 2人分

《作り方》

①豚バラ肉は1cm幅にスライスし、塩・こしょう・酒で下味をつける。
梅干しは種を取ったら包丁で細かく刻み、その他の(合わせ調味料)と共に混ぜ合わせておく。
しめじは石づきを取り、小房に分ける。
大葉は千切りにしておく。

②フライパンを火にかけたら油を引かずに豚バラ肉に軽く焼き色が付くくらいまで焼く。

③肉をひっくり返したら、しめじを加え、焼き目をつけながらしめじにも火を通す。

④合わせ調味料を加えたら全体が馴染むように炒め合わせる。

⑤炊きあがったご飯の上に④を乗せ、大葉と白ごまも乗せる。

撮影時はヤエンクッカーで調理しました。
山行スケジュールによっては、①を家で行い、清潔な容器やポリ袋に移し替え、保冷しながら持ち運んでも構いません。
調理によっては上の写真の様にキッチンバサミを使用すると、まな板と包丁を持参しなくても良いので便利!

バランス良く、さらに効率良くパワーチャージ!

今回は「バテない」ために特に大切な栄養素3つをご紹介しましたが、管理栄養士として一番お伝えしたいことは「ベストなコンディションで登山に臨むために、これさえ食べておけば完璧!」という食べ物は無いということです。

栄養素は、体内でお互いに作用しあい機能しているものであって、何か過不足があれば身体機能に影響をおよぼす危険性があります。一番大切なことは日頃から特定の栄養素に偏らず、バランスの良い食事を心がけることです。簡単&美味しい、かつ体も喜ぶような山ごはんで、登山を安全に楽しみましょう!
他にもInstagramで様々な料理をご紹介していますので、ぜひご覧ください。

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