ダンプ暴走で負傷者を放置…金正恩氏の「呼びかけ」届かず

今月21日、北朝鮮の鉱山でダンプトラックが坂道を逆走する事故が起きた。複数の労働者が巻き込まれて重傷を負ったが、適切な治療が受けられずにいる。現地のデイリーNK内部情報筋によると、事故が起きたのは、咸鏡南道(ハムギョンナムド)端川(タンチョン)市にある北朝鮮最大の亜鉛の産地、検徳(コムドク)鉱山だ。

坂の上に停められていたダンプトラックがブひとりでに逆走を始め、夜間作業を終えたばかりの鉱山労働者の列に突っ込んだ。きちんとブレーキがかけられておらず、車止めをかませていなかったのが原因だ。

北朝鮮の労働現場では、安全対策の欠如による大規模事故が繰り返し起きてきた。

ムリな工期やノルマの達成を最優先する国家の体質が背景にあるが、金正恩党委員長は最近になり、「安全を重視しろ」と呼び掛けているとも伝えられる。ただ、長く続いてきた悪しき慣行が一朝一夕に変わるはずもなく、現場では相変わらず事故が続発している。

今回の事故では労働者2人が死亡、3人が重傷を負った。労働者は証明の点る坑道から外に出てきたばかりで、暗闇に目が慣れておらず、逆走してきたダンプトラックに気づかなかったものと思われる。

3人の容態は深刻で、大学病院での緊急手術が必要な状態だ。この地域で大学病院と言えば、外科手術で定評のある咸興(ハムン)医学大学病院だが、鉱山近辺は道路事情が悪い上に、260キロも離れており、容態の悪い患者が移動中の揺れに耐えられない可能性がある。

残された選択肢はヘリによる搬送だが、事故から2日経ってもヘリがやって来る気配はなかったという。

企業所は「作業を終えた後の事故なので、組織としては特に何もできない」(情報筋)という態度を取っている。つまり、責任逃れに汲々としているということだ。それに対して家族は怒りの声をあげている。

「家族たちは幹部のところに押しかけて泣いて騒いで(ヘリによる搬送を)訴えたが、積極的に動こうとする幹部はいない。人が死にそうなのに、地団駄を踏むことしかできず、かわいそうだとの声があがっている」(情報筋)

1932年に日本鉱業(現JXTGエネルギー)が開設したこの鉱山だが、朝鮮戦争後には韓国軍の捕虜や地主階級などが送り込まれた。その後も、革命化(下放)の場として使われている。つまり、流刑地として使われるほど労働環境が劣悪なのだ。

24年間働いた末に脱出し、1998年に韓国にやってきたチャン・ヒョンスさんは2001年に韓国の朝鮮日報の取材に「1990年代以前にも、発破や落石などで毎日のように人が死んでいったが、配給が途絶えてから自分で生きていく力のない人々がまず餓死した」と述べた。

この鉱山では昨年の大晦日、トロッコから落ちた労働者7人が死亡する事件が起きている。厳しいノルマを達成するために無理な作業を行った結果だ。

そんな環境で生き残るために、掘り出された鉛や亜鉛を盗んで売り飛ばしたり、薬物に手を出したりする者が後を絶たない。

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