山頂から見るご来光は最高!
山での楽しみと言えば「山頂から見るご来光!」という方は多いのでは。
暗闇に包まれた世界が少しずつ赤く染まっていき、太陽が顔を覗かせる瞬間の美しさは、思わず息を飲んでしまうほど。光が優しく包み込み、時がギュッと凝縮されたかのような、不思議な感覚を覚えます。
そう、山の上でのご来光は、早起きして頑張った人への最高のご褒美です!
その前に控える危険・・・それは暗闇
いざ「山頂でご来光を拝もう!」と思い立った場合、一つの懸念事項が挙げられます。
それは暗闇の中を歩くということ。
暗所行動は日中の登山に比べ非常にリスクが高く、基本的にご来光登山やナイトハイクなどの明確な目的がない限り避けるべきです。
しかし、どうしても必要な場合は、以下のようなリスクに注意して行動しなければいけません。
暗闇を歩く時の危険
この他にも、暗闇で視界が悪くなると木にぶつかったり、落とし物を見つけにくくなったりと、明るい時になんでもなかったことも困難になります。
暗所で行動をするには、こうしたリスクとその対処方法を理解することが大切です。
山岳ガイドに聞く〈暗所行動で抑えておくこと〉
今回は、日本山岳ガイド協会認定の山岳ガイドである、河合宗寛さんに暗所行動での注意点などについて聞いてみました。
暗所行動時の注意点を教えてください。
河合ガイド
必ず単独行動はさけることです。
登山の基本ですね。他にはありますか?
河合ガイド
視覚情報が著しく少なくなるため、危険な場所にいても気づかないことがあります。頭上に不安定な巨石がある、足元が切れ落ちた崖の縁にいる等。当然、道迷いの可能性も高まります。
事前に地図を見て見えていない地形を想像し、安全を確保するためのゆとりも持っておくことが大切です。
何か工夫するポイントなどはありますか?
河合ガイド
ルートについて事前情報を得ておくこと、そもそも暗所行動が可能か否かの判断をすることが必要です。
その上で、できるだけ照射力の高いヘッドライト(最低でも200ルーメン)を使うことを勧めます。また予備のヘッドライトを用意しておくことも重要です。
暗所行動が可能かどうかの判断材料を教えてください。
河合ガイド
道に不明瞭な箇所がない、落石や滑落の可能性がない、気象条件に不安がない、緊急自体にも対応できる等が判断材料になります。そのため、行ったことのある山・コースであることも必要な条件です。
なるほど。基本的な歩行、読図や気象読み、緊急時の対応など、登山の基礎知識をしっかりと押さえておく必要がありますね。
まとめるとこんな感じ
河合ガイドのアドバイスを参考にしながら、実際に暗所行動を実践してみました。
暗闇で行動してわかった”6つのポイント”
実際に暗所行動をして気づいた計画、装備、歩き方などの6つのポイントを紹介します。
【検証場所】
長野県茅野市にある守屋山(標高1,631m) 杖突峠登山口の往復
【標準コースタイム】
1時間50分
【当日の出発時間】
AM3:00
【当日の山頂到着時間】
AM4:56
【当日のご来光時間】
AM5:16
ポイント1|焦らないようにプランにはゆとりを持って
今回の検証では、コースタイムと同等の速度で歩いてご来光の20分前に山頂に到着しました。
もしタイトなスケジュールを組んだ場合、些細なトラブルで「山頂に着いた頃には日が昇っていた…」なんてことにもなりかねません。地図上のコースタイムと自分の速度を照らし合わせ、ゆとりあるプラン立てが大切だと感じました。
また空が薄明るくなってきても焦りは禁物。焦りから思わぬ怪我をしてしまう危険も。この状態からご来光に至るまで1時間程度の時間差がありました。自分たちのペースで確実に山頂を目指していきましょう。
気づいたポイント
・自分の標準タイムを知った上で、ゆとりプランを計画しよう
・空が明るくなってきても焦りは禁物。ご来光までは、まだ時間がある!
ポイント2|音の鳴るもので自分の存在を知らせよう
今回も登山口には、注意喚起の看板が…。こういったものを見てしまうと、誰しも不安に思うもの。そのためにも事前の情報収集は大切です。
熊などの野生動物との予期せぬ遭遇を避けるためには、人の存在を知らせることが必要。動物は人間の気配を感じることで、遠いところへ離れていきます。熊鈴やラジオなど音の鳴るものを携帯し、自分がいることをアピールすることで不要な遭遇をさけましょう。
気づいたポイント
・熊鈴やラジオなどを携帯し、動物に自分の存在を知らせよう
・人の会話も効果的。数人での暗所行動は○
ポイント3|暗闇でもスマホのGPSアプリが活躍!
スマホのGPSアプリはとても便利で、暗闇でもすぐに地形図と位置を把握することができました。道迷い・ルートファインディングミスを防ぐため、暗所行動では自分の現在地を一定間隔で確認しましょう。
地図は暗闇では見えにくく、ある程度の慣れが必要だと感じました。とは言え万が一に備え、地図とコンパスの所持は必須です。
気づいたポイント
・スマホのGPSアプリは便利!事前に登る山のデータをダウンロードを忘れずに
・スマホ充電用のモバイルバッテリーも携帯しておこう
・万が一に備え、地図とコンパスの所持は忘れずに
ポイント4|不要な外付けはさけよう
暗闇での装備や荷物の外付けは、落としてしまった際に見つけることが困難になったり、見えにくい枝に引っかかったりなど転倒の恐れも考えられます。ザックに入るものは極力仕舞うようにし、難しいなものはしっかりと固定するようにしましょう。
また休憩後、出発する際には身の回りに置き忘れがないかのチェックも大切です。
気づいたポイント
・荷物や道具の外付けは極力避ける。仕舞えるものはザック内に
・休憩後などは置き忘れがないか身の回りをチェック
ポイント5|足元に注意!でも下ばっかり見ていると…
昼間はなんてことのない木の根っこや石も、暗闇では案外目に入らないこともありました。常に足元に注意を払いながら歩くことで、転倒や怪我のリスクは抑えされるでしょう。
その一方で、下ばかり見て歩いていると看板などや分岐などの重要なポイントを見落としてしまう恐れも。足元に気をつけながらも、必ず周囲を見渡すように心がけましょう。
気づいたポイント
・足元に注意!木の根っこや石なども日中より見えにくい
・足元ばかり見ていると看板や分岐を見落とす可能性も。周囲を見渡すクセを
ポイント6|想像以上に寒いかも?防寒対策は忘れずに
深夜から明け方は最も気温が下がる時間帯。歩いていれば寒さも気になりませんでしたが、山頂でご来光を待っている時は防寒着は必須でした。
夏の低山などであってもフリースなどを、高山ではダウンジャケットやニット帽などを備えておくようにしましょう。
気づいたポイント
・明け方は想像以上に寒い!しっかりとした防寒対策を
・山頂は風が強い可能性が高い。耐風性のあるシェルも持っていくように
暗闇を攻略し、ご来光を目指す楽しみを
今回、改めてご来光登山の魅力に気づかされました。暗闇の世界を歩き、少しずつ明るくなっていく空、そして山頂でご来光を拝めた瞬間。このストーリーと達成感は他には変えがたい感動があります。
暗所行動はしっかりとした計画とポイントを抑えれば、決して無謀なものではありません。まずは近くの散歩道でも良いので、夜の道を体験してみてください。そこから危険を理解しそれに対応できる経験を積んでいくことで、道筋が見えてくるはずです。
暗闇が攻略できれば、また一つ新しい登山の楽しみ方が広がっていくでしょう。
※暗所行動は一般的な登山形態ではありません。また当記事は暗所行動を推奨するものではありません。単独行動や無理な計画は避け、不安な場合は経験者と同行するようにしましょう。
教えてくれた人:河合 宗寛ガイド
日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドⅠ・スキーガイドⅠ。長野県条例 信州登山案内人。ウィルダネス・メディカル・アソシエイツ認定 ウィルダネス・ファースト・レスポンダー。
「その季節の最も素晴らしい場所に、最も適した入り方で」をコンセプトに、登山者をガイド。自身もジャンダルム、前穂北尾根を登ったり、沢登りやバックカントリーなどを通じて自然を楽しんでいます。