病からの復活目指す中日藤嶋と笠原 共に投球練習を再開、復活にかける思い

中日の笠原祥太郎(左)と藤嶋健人【写真:荒川祐史】

右手血行障害からの復帰を目指す藤嶋、届いた上原浩治からのメール

「5月のドラゴンズカレンダー、カテーテル兄弟なんです」と藤嶋健人が笑った。「一緒にすんなよ」と笠原祥太郎が白い歯を見せる。ナゴヤ球場で1軍復帰を目指す2人の表情は明るい。

 ともに3年目。今年は大きな飛躍が期待された。しかし、藤嶋はいきなり躓いた。1月に右手血行障害を発症し、キャンプ不参加。2月上旬にカテーテル手術を受けて、10日間の入院生活を送った。その後は階段の昇り降り、軽めのジョギング、キャッチーボールなど常に体と相談しながら、慎重にリハビリを続けてきた。

 笠原は初の開幕投手に抜擢された。その後もローテーションを守り、4試合で2勝0敗。投手陣の軸として活躍していた。しかし、4月26日の練習後に体調不良を訴えた。検査の結果、不整脈の症状が認められた。5月10日に「発作性上室性頻拍」と診断され、カテーテルアブレーション治療を行った。数日間の入院後、14日から練習を再開している。

 5月27日。ナゴヤ球場でその2人がブルペンに入った。

 藤嶋は術後、6回目。ストレートのほか、カーブやフォークなど持ち球の全てを投げた。球数は術後最多の60球。心地よいミットの音が響いた。

「状態はものすごくいいです。気持ちも前向きです。少し前に突っ込むので、体幹や下半身を鍛えて、そこを修正できるようにしています」

 去年の開幕前、巨人の上原浩治の投球フォームを動画でチェックし、模倣したことがブレイクに繋がった。対話も実現。「1つ1つの質問に本当に丁寧に答えて頂きました」と感謝の思いは尽きない。

 その上原が引退した。

「当日の朝に新聞で知って、LINEを送ろうと文章を考えていたら、上原さんから来たのでびっくりしました。『体調はどうだ? 1軍で会えるのを楽しみにしていたけど、辞めるよ。お前のことは気にしているから、何でも聞きたいことがあれば、聞いてくれ』と」

 藤嶋は復活を誓った。

「上原さんに夢をもらったように僕も夢を与えられるように頑張ります。早く1軍で投げる姿を見て頂きたいです」

5月のドラゴンズカレンダー【写真:若狭敬一】

発作性上室性頻拍の笠原、頭をよぎった引退「正直、新潟に帰って就職することも」

 笠原は治療後、初ブルペンだった。ストレートとチェンジアップを交えて32球を投じた。

「勢いがありませんでした。全部、垂れているというか。まだまだです」

 苦笑いを浮かべたが、投げられる喜びを感じていた。不整脈は大学時代から持っていたという。

「3年生からだったと思います。私生活では一切出ないのですが、運動すると、時々動悸が起きていました。プロに入ってからも何度もありました。ただ、休むとおさまるので、治療は今まで1度もしたことがなかったんです」

 検査で原因が判明。しかし、医師からはこう告げられた。

「根治できない可能性もゼロではありません。その場合、運動は勧められません」

 つまり、最悪“引退”ということだった。

「5年近くも不整脈と付き合ってきたので、大丈夫だろうと思いました。ただ、正直、新潟に帰って就職することも考えました」

 治療は局所麻酔で行われた。したがって、医師の会話がうっすらと耳に入った。

「間違っているかもしれませんが、『これは治らない。次だ』と聞こえたんです。その時はさすがに『あ、終わった』と思いましたね」

 不整脈の原因は異常な電気信号か電気経路によるものらしい。

「おそらく電気信号を焼き切ることは不可能だったんだと思います。ただ、それが出ても、経路を切断すれば良いらしく、たぶんそのことを話していたんだと思います」

 治療は無事に成功した。今は運動をしても、全く動悸や発作はない。

「今後はもう少しブルペンに入って、BP(打撃投手)をして、シート打撃に登板。もちろん、2軍の試合にも投げると思います。どんどんペースアップしていきたいですね」

 藤嶋は今月中に打撃投手をこなすところまで来ている。

「夏場の復帰を思い描いていましたが、ずいぶん早いです。6月中には2軍で投げたいです」

 笠原も前を見据える。

「できれば、交流戦中に1軍復帰したいです。遅くても6月下旬のリーグ戦再開後には」

 けが人続出で借金を抱える中日の現状は厳しい。しかし、光はきっと差し込んでくる。まもなく5月のカレンダーは破られる。カテーテル兄弟がマウンドに立つ日は遠くない。(CBCアナウンサー 若狭敬一/ Keiichi Wakasa)
<プロフィール>
1975年9月1日岡山県倉敷市生まれ。1998年3月、名古屋大学経済学部卒業。同年4月、中部日本放送株式会社(現・株式会社CBCテレビ)にアナウンサーとして入社。テレビの情報番組の司会やレポーターを担当。
また、ラジオの音楽番組のパーソナリティーとして1500組のアーティストにインタビュー。2004年、JNN系アノンシスト賞ラジオフリートーク部門優秀賞。2005年、2015年、同テレビフリートーク部門優秀賞受賞。2006年からはプロ野球の実況中継を担当。
現在の担当番組は、テレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜12時54分~)「High FIVE!!」(毎週土曜17時00分~)、ラジオ「若狭敬一のスポ音」(毎週土曜12時20分~)「ドラ魂キング」(毎週金曜16時~)など。著書「サンドラのドラゴンズ論」(中日新聞社)。

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