眠りを求めて(上)寝不足 企業の収益にも影響

「睡眠セミナー」で参加者に独自の体操を指導するヨシダさん(右)=2019年2月、本牧地区センター

 「眠りに就きやすいよう、体を緩ませていきましょう」-。

 今年2月、本牧地区センター(横浜市中区)で行われた「睡眠セミナー」。幅広い年齢の参加者が体をほぐす「入眠体操」のレクチャーを受けていた。講師を務めたのは睡眠コンサルタントのヨシダヨウコさんだ。

 寝具店の娘として生まれ、編集者として活躍していたヨシダさんは、極度な睡眠不足による体調不良を経験したことなどから睡眠改善の仕事に携わろうと2018年に起業した。睡眠改善インストラクターの資格を取得し、企業や自治体向けの睡眠研修を行うほか、百貨店でセミナーを開催するなど活躍の場を広げつつある。

 ヨシダさんは、活動を通じて多くの人に知ってほしいことがある。

 「実は、神奈川県民は世界で1番寝ていないんです」

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 経済協力開発機構(OECD)が18年に発表した国際比較調査では、欧米を中心とした31カ国の中で1日の睡眠時間が最も短かったのは日本だった。調査平均の8時間25分に対して約1時間短い7時間22分。米国と比較すると1時間23分短かった。

 5年ごとに行われる総務省の睡眠時間の調査では、近年、神奈川、千葉、埼玉県が最下位の常連。11年は神奈川が最下位で、16年はワースト3位だった。3県は通勤・通学時間が長いことが影響しているとみられ、働き盛りの世代はもっと短いと推測されている。

 2年ほど前、日々のわずかな睡眠不足が「借金」のようにじわじわ蓄積する「睡眠負債」という言葉が話題となった。睡眠負債が進むと自分では気付かないうちに仕事や家事のパフォーマンスが落ちることや、命にかかわるような疾病のリスクが高まる可能性があるという。

 ヨシダさんは「日本では健康を考える時に、食事や運動に比べて睡眠があまり重要視されてこなかった。睡眠不足にもっと危機感を持ってほしい」と強調する。

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 睡眠不足は企業の収益にも影響するとされる。

 米国のシンクタンク・ランド研究所が行った16年の調査によると、「仕事のパフォーマンスの劣化による経営効率の低下」など、睡眠不足を原因とする経済損失は、日本で年間15兆円にも上ると推計された。

 「米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏や、アマゾン・コムの創業者で最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾス氏ら著名な企業トップは徹底してスケジュールを管理し、ほぼ7時間寝ている」とヨシダさん。「余った時間に寝るのではなく、まずは睡眠時間を確保することでパフォーマンスを上げている。日本の企業の経営者の間でもやっと認知が広まってきた段階。さらに睡眠の重要性を広く伝えていきたい」と訴える。

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 仕事のパフォーマンス低下や体調不良など、睡眠不足のデメリットについての認識が広まり、健康経営の視点から対策を講じる企業が増えている。質の良い睡眠を得ようという消費者心理から、寝具や衣料、室内環境、睡眠管理アプリなど関連ビジネスの市場もにぎわいを見せる。睡眠を巡る企業の動きを追う。

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