28年

 「トクナガーっ?」…なぜ、この人気キャスターは、ろくに顔も知らないはずの地方局の記者を変に親しげに呼び捨てにするのだろうか、とまるで見当違いなことを考えながら、4月に赴任した離島の支局で画面に見入っていた▲中継の現場で呼ばれていたのは、隣のテレビ局に出向していた先輩記者だった。「状況が分からないんですよっ」。島原市役所の災害対策本部の前から怒ったような口調で繰り返すリポートの声と、灰で真っ黒にすすけた顔のヘルメット姿をよく覚えている。それが筆者の「6.3」▲大火砕流の直前まで「定点」にいて危うく難を逃れた先輩カメラマンをはじめ、当時、取材の中心にいた記者の多くは既に社を去り、あの日の現場を知る同僚は数えるほどになった。お気づきの方もおられるだろうが「トクナガ」は今、本社の社長になっている▲28年は決して短くない時間だ。今年、連載を担当した島原支局長は1985年生まれでその頃6歳になったばかり。デスク役の報道部編集委員は20歳の大学生だった▲きょうのローカル面、連載は災害の記憶を語り継ぐ人々を取り上げながら、体験の風化に警鐘を鳴らしている▲「未来への責任」-文字にしてしまえばたった6文字。その重さを共有する地元紙の役割を、改めてかみしめる。(智)

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