現在キリンチャレンジカップに向けた日本代表チームに招集されている久保建英。この後はコパ・アメリカにも参加する予定となっており、大きな注目の的となっている。
彼の話題の一つが今夏の去就だ。すでにFC東京との契約は満了を迎えているとも伝えられ、欧州への移籍が確実視されている。
その加入候補の一つと報じられているのがフランス・リーグアンのパリ・サンジェルマンだ。カタールの投資会社にとって保有されている強豪クラブである。
しかし、そこに加入することがいいことなのかどうか?懸念される問題点を考えてみよう。
外国人枠が厳しい
欧州のトップリーグでは比較的外国人枠が厳しいとされるフランス・リーグアン。
公式には発表されていないため文献によって条件に差があるのだが、最大の数値をとっても5人の登録しか許されず、同時にプレーできるのは4人まで。
しかも、コトヌー協定加盟国(アフリカやカリブ海地域など78カ国が該当)が外国人とカウントされないこともあり、リーガ・エスパニョーラと並んで厳しい場所である。
外国人枠が厳しいことに加えてトップチームに豊かなタレントが揃っている状況があれば、そこに割って入ろうとする選手の出場機会が乏しくなるのは必至だ。
まだ17歳とはいえJリーグでこれだけ出場してきた選手だ。それが18歳になってプレーできない状況になるのは、今後のキャリアを考えた上で明らかに悪影響がある。
ただ、もちろんその中で競争を勝ち抜いてレギュラーに定着すれば、大きなステップアップになるはずだが…。
前線の選手は飽和する
PSGはまさに古い金満クラブにありがちな状況だ。「ギャラクティコス」と呼ばれたレアル・マドリーの「ジダネス&パボネス」に象徴されるような。
華々しくブランド価値がある前線の選手と攻撃的なDFに人材がダブつき、地味な部分は長い間やっているベテランに頼りつつ、それと競争するのは生え抜きや若手。
しかもPSGの場合はバルセロナのような国内の強烈なライバルがいないため、これで十分価値をキープしたまま勝ててしまう状況がある。
カバーニやネイマール、エムバペらに退団の噂はあるが、彼らを売らなければならない理由もそれほどない。目先の利益だけを追い求めればクラブの価値が落ちてしまうため、大量放出があるとは考えにくい。
今季多くの生え抜き選手が使われたのはあくまで怪我人の続出やラビオの反乱があったためだと解釈したほうが妥当だろう。
ただ、ネイマールの事件が大事になり、カバーニも退団、エムバペも来季レアル・マドリーに行き、ヴェッラッティもどこかに行ってしまったら全く状況は変わるが…。
日程がハードで試合がぬるい
PSGはリーグ・アン、UEFAチャンピオンズリーグ、クプ・ドゥ・フランス、クプ・ドゥ・ラ・リーグを並行して戦うクラブで、ハードなスケジュールを余儀なくされる。
それはプレミアリーグなどトップレベルのコンペティションを戦うクラブにはつきもののことだが、PSGには「リーグで突出しすぎている」という点がある。
試合を常に見ている人なら分かるだろうが、おそらく国内の戦いは「ぬるい」と言っても反論はないのではないか。
しかもメンバーがあれだけ落ちていたとはいえ、優勝が決まっていたとはいえ、最後は「普通にやれば勝てる」相手に連敗を続けるという波の大きさ。強者のメンタリティだけが膨らみ、勝者のメンタリティが育っていないように見える。
もし出場機会を貰ったとしても、余裕の展開の終盤で途中起用されるだけならば、それは実戦経験ともいい難いはずだ。
だが、逆に試合数が多く余裕があるということは、様々な場所で出場機会を得やすい状況にもあるという意味にもなるが…。
保有している選手の価値を上げる必要がない
PSGは「選手を売る」クラブではない。オーナーの資金力は明らかに巨大であり、スポンサーにお金を渡して「黙って契約金としてクラブに流してくれ」と迂回投資していたという話まであるほど。
つまり、安く選手を取ってきて、なんとかして価値を上げてやりたい…という意向はない。ダメだなと判断されれば、干してポイしても全然問題ないのだ。
今完全に干されているラビオも、もし他のクラブにいたら間違いなく冬のマーケットで売られていただろう。大幅に値下げしてもだ。あるいは問題があっても起用されている。
ところが干したことでラビオの価値は下がり、さらにタダで出ていく。高い年俸を支払っている選手が何の価値も持たなくなっても構わないのだ。
「なんとかしてこいつを育てないと大損する」というクラブとは違う。人は掃いて捨てるほどいる、そんな場所で育っていくのは至難の業だろう。しかも外国人であり、状況は不利なのだ。
しかし、カタールのオーナーが「投資を制限していく」という報道もある。もし2022年以降を見据えてモナコのような育成クラブに舵を切っていくことがあるならば…最適な場所になる可能性もあるが。
同国内でのステップアップがない
選手がよりステップを進めたいとなったとき、最も重要なのは環境である。常に言われるのは「違う国に馴染むのは難しい」ということだ。
同じ欧州でも、国によって文化、食事、言語、そして気候も異なってくる。サッカーの戦術や傾向も違うのだ。それに苦しんでしまう選手は少なくない。
久保建英はすでにスペインの環境と文化は熟知しているが、フランスはまだ未経験の場所だ。
フランスに馴染むことは決して不可能ではない。必ず久保建英ならやってのける。だが時間はしばらくかかるだろう。
しかし、ではPSGで活躍したとして、次のステップを進めるとしたらどこか?フランス内ではステップダウンするところしかない。同レベル、あるいはステップアップしようとすれば、国を変えるしかない。
となれば、せっかくフランスに馴染んだにもかかわらず学び直しを強いられてしまい、また時間がかかる。イングランドならば18歳から3年プレーすればホームグロウンにもなれるが、それもできないわけだ。
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もちろん、PSGでずっと活躍できれば最高の選択になるだろうが。