F1第6戦モナコGP決勝レースを7位で終え、モナコのハーバーに浮かぶ巨大なエナジーステーションに戻ってきたダニール・クビアトは、レーシングスーツ姿のまま周囲の目を気にすることもなくケリー・ピケと固い抱擁と口づけを交わした。
1年ぶりにF1に復帰した2019年シーズン、ようやく巡ってきた会心のレースだった。
「とても満足できる良いレースだったよ。僕もチームも最大限にチャンスを活かせた。1周目にカルロス(・サインツ)が僕らの前でリスキーな動きをしてきたから彼の後ろにい続けることになってしまったけど、最終的に7位になれて良かった。ここまでのトロロッソでの最高の結果だからね」
今季のトロロッソ・ホンダのマシンSTR14にポテンシャルがあるのは分かっていた。しかしそれを実力通りに結果に結びつけることができなかった。ミスやトラブルでクリーンな週末を一度も送ることができていなかったからだ。
しかしF1第6戦モナコGPの週末は違った。
木曜のフリー走行では、クビアトはややマシンとサーキットへの適応に苦しんだものの、チームメイトのアレクサンダー・アルボンが5番手につける好走を見せた。
「ダニーは少し苦労していたみたいだけど、少なくとも僕にとってはクルマはとても強力だったしプッシュし続けることができたよ」
いつも以上に上機嫌だったアルボンに対し、クビアトは「ディレイトしている」とパワーユニットのデプロイメント切れを訴えたが、データを見てもそのような形跡はなかった。実際にはブレーキング時のエンジンブレーキやリヤエンドの挙動の不安定さがドライバーにそう感じさせていたようだが、そのくらいマシンの仕上がりには差があったということになる。
しかしモナコでは金曜に1日のオフを挟み、そこでじっくりとマシンのセットアップと自身のドライビングを見詰め直し煮詰めることができたのが良かった。
土曜には見違えるような走りを見せ、今季初めて2台揃ってQ3に進出し、クビアトはアルボンを上回って予選8番手を獲得してみせた。
マシンの仕上がりが良くなり思ったとおりに反応してくれるようになったことで、クビアト自身のドライビングも研ぎ澄まされて“乗れている”状態になっていたからだ。
「モナコで攻めているともっとプッシュしたいという誘惑に駆られるものだけど、マシンの限界点までに留めておくというのがすごく大事なことなんだ。クルマは僕の思うように動いてくれたし、チームのみんなが素晴らしい仕事をして僕が求めているマシンに仕上げてくれたよ。クルマは乗っていてとても気持ちが良かったし競争力もあった。これで3戦連続でQ3進出だし、僕自身のパフォーマンスにもチームのパフォーマンスにも大満足だよ」
決勝ではスタート直後にサインツがアグレッシブなドライビングでターン3のアウト側からアルボンを交わし、続いてクビアトまでパスしてポジションを上げてきた。
序盤はペースの遅いダニエル・リカルド(ルノー)に押さえ込まれるようかたちで中団グループが大渋滞に陥ったが、11周目にセーフティカーが入ったところでリカルドとケビン・マグヌッセン(ハース)がピットイン。トロロッソ・ホンダの2台はここでリスクを取ってステイアウトを選んだのが正解だった。
「チームはピットに入ることを提案していたけど、ステイアウトすることにしたんだ。あれは良い判断だったよ。タイヤも良い状態で、替える理由が無かったね。あの判断が良いポイントになったよ」
サインツを抜くことは最後まで叶わなかったが、それでも7位・8位でフィニッシュ。トロロッソ・ホンダとしては大きなつまずきなくマシン本来の速さを結果に繋げることができたレース週末だった。
「今年初めて全てスムーズなレース週末を送り、初めて自分たちの実力に見合った結果を手にすることができた」
アルボンも満足げにそう語った。
それを成し遂げることができたチームとしての進歩もさることながら、クビアトは自分自身も1年半のブランクを経てからのレース復帰にようやく自信が固まってきたようだ。
「開幕した頃よりも予選は進歩できていると思う。僕自身、1年半の間、F1から離れていただけに復帰当初は100%の自信がなかったのも事実だけど、中国GPで良い予選ができたのが最初の進歩でここ3戦は良いアタックができるようになっているし、予選でも決勝でもコンペティティブな仕上がりができていると思う」
モナコに住んでいるクビアトだが、この週末はホテルで暮らすことにした。コクピット外の時間を自宅でリラックスするのではなく、ホテルに滞在することでいつものレース週末と同じように緊張感を保ち、自分が成すべき仕事に100%集中したかったからだ。
それが見事に上手く行ったモナコの週末だった。
それに加えて、STR14がどんなサーキットでも高い競争力を持っているということを証明できたのも大きかった。
総合力が問われるバルセロナで好走を見せただけでなく、結果こそ伴っていないものの開幕からここまでどのサーキットでも安定して中団グループの上位にいるのも確かだ。
「今年の僕らはどんなサーキットでも速いよ。開幕からパフォーマンスは高くてオーストラリアの決勝でもいくつかの場面では最速だったし、バーレーンでクルマの気に入らないところも分かって、対策することでますます良くなっていった。そしてバルセロナでも中団勢では最速だった。まだ中団グループは大混戦だけど、僕らはこれからさらにどんどん良くなっていくよ」
モナコでの週末のように全てをクリーンにスムーズに過ごすことができれば、トロロッソ・ホンダはどのサーキットでも常に中団グループ上位を争いポイントを重ねていける。シーズン中盤戦に向けてこれ以上なく明るい光明を手に入れたトロロッソ・ホンダのモナコGPだった。